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act.5
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みんなよりも遅く寝て、みんなよりも早く起きる。が、俺の日常だ。
アラームが鳴り響く前に、止めれば香西はもぞもぞと俺の腰に腕を巻きつける。
さながら小さい子がお母さんに甘えるかのよう。
寝ててもその美貌に陰りは見えないし、本当に昨日疲れたんだろうなと分かる、薄っすらとしたクマさえも、なんとなく色っぽい。
よしよしと、上手く腕から抜け出し、顔を洗って、歯磨きをしてから、朝食の準備にかかった。
朝はとにかく忙しい。一番最初に父さんを起こして、二番目に高校生の蘭その下の中学生の麗、と県外に通う中学生の美緒を順番に起こして、朝食を出す。
一番下の小学生の奈緒と母さんを起こして、父さん達を見送った後、支度が出来た麗に奈緒を小学校まで送ってもらい、母さんの朝食を用意する。
「あらやだ!こんな時間!うい、洗い物そのままでもいいからね!」
「大丈夫だよ、今日は昼過ぎからだし」
「もー、それならまだ寝てていいのに!」
「ありがとう、それより時間でしょ」
「あらー、本格的に遅れちゃう!」
パタパタと慌ただしく母さんが家を飛び出して、俺の朝は一旦終わり。
四人分の食器を、食洗機に入れて、昼飯の献立を考える。
簡単にオムライスならいけるかなと、冷蔵庫と相談したのち、脱衣所へと向かう。
うちは五人兄妹だから、洗濯物は一般家庭に比べるとかなりの量になる。一日最低でも二回は回さないと、パンツが無くなることもある。
すぐにでも洗濯に取り掛かり、その間にリビングに掃除機をかけた。
二回目を回す頃には、まだあと四十分は暇だ。時間もまだ九時過ぎ。
課題にでも取り掛かろうかと、自室に戻ると、不機嫌そうな香西と目があった。
「おはよう」
「・・・・・・」
話し掛けても、鋭い目線は変わらない。多分睨んでるだと思うんだけど、もう慣れてるから気にしない。課題を手にとって、なおも注がれる目線に、俺は何か言いたい事でもあるのだろうかと、ベッドにいる香西まで近寄る。
話しやすいように、膝を床につけて、ベッドに腰掛ける香西と目線を合わすが、どうも彼の口は動き出そうとしない。
顔色は悪そうもないし、二日酔いって事もないだろう。
「・・・・どした?」
「・・・せー」
我慢出来なくなった俺は、自分から質問をしたが、彼の口からは掠れた声のみ。
うーん、うるせーって言いたいのかな、と予測を立てれば、案の定当たりかもしれない。
「なんかいる? 喉乾いた?」
「・・・お前の寝顔見たことない」
「そう?昨日ぐっすり寝ちゃってたから、見られたかと思ったのに」
「・・・がっこー昼からなのに、早起きしてんじゃねえよ」
甘えるように腰を抱く腕と、肩口に乗せられる頭に、あぁなんだそういう事かと理解する。
多分きっと彼は起きて、俺が隣にいなかった事に不服なのだろう。
そして、きっといつも泊まってる所ではそうやって朝から睦言を囁き合うのが通例なんだろう。
俺に睦言なんか言ったって、笑って済まされちゃうと思うけどね。
よしよしと、頭を撫でてやれば、更に埋もれるように体重をかけられる。
「こーら、重たいって」
「・・・なぁ、なんでお前俺に優しくすんの?」
「えぇ? 突然何?」
「うるせえ口答えすんな、質問に答えろ」
すりすりと頬ずりされたら、ちょっと生えた髭が痛いけど、それもまたかっこいいんだから仕方ないと許してしまう。
それよりも、なんでまた今更な質問をするのか疑問だ。
「そうだなぁ?、ほっとけないってのが一番かな?」
「あぁ?」
「そりゃー、香西はさ、ぶっちゃけクズだし、救いようがないし、多分死んだら地獄行きだろうし、今でも恨まれてるだろうし、明日にでも刺されて、死んでも変じゃないけどさー」
「て、てめえ」
「それでも、俺は香西をほっとけないよ、好きだからってのもあるけど、」
ハッと、何かに惹かれるように顔を上げた香西は、俺の顔をがっしりと大きな手で包んだ。むしろ固定する。
目がちょっとなんか、怖いけど。
「お、お前今、なんて」
「だからほっとけないよって」
「そのあと!!!」
「ン? 好きだから?」
「なっ、なんで早く言わねーんだ!!」
「いやいや、最初から言ってるって」
「聞いた事ねえ!! てめー、嘘だろ! 俺に同情してんだろ!」
「あらー、同情できるとこなんかないじゃん、じゃなきゃ優しくなんかしないって」
そんなに俺だって、暇じゃない。
可愛い家族の為に朝から夜遅くまで家事やって、学校にもちゃんと毎日出席して、普通なら忙しくて香西の面倒なんか見るわけないじゃないか。
だけど、その残りわずかな時間を割いてでも、愛してあげなきゃって思わせたのは、クズで有名な香西だけなんだよ。
そう伝えてあげれば、香西は顔を真っ赤にした。
殊更強く掻き抱く腕に俺は笑うしかない。
遊びだったら、香西は得意かもしれない。その場の雰囲気でヤって、付き合うとかそういうのはメンドくさいから、後回し。気が付けば、更にまた抱いて欲しいと縋る子が列をなせば、悪循環の出来上がり。
それでも、他の人を抱いても、何処かで泊まっても、何日も見かけなくても、俺の所に絶対帰ってくる。
それだけで俺は、進歩したなって思える。
「香西、痛いよー」
「うるせえっ、なんでそんな大事な事言わねえんだ! この馬鹿! アホ! 」
「前に同じ事聞かれて、ちゃんと答えてるよ?」
「あぁ!?」
「でも、香西はね、また忘れちゃうんだ」
ちょっと自分でも、しまったと思うくらい、弱った声が出てしまった。
ずっと目線を合わせていたのに、この後に及んで逸らしてしまった。これじゃさも俺が傷付いてますと言わんばかりだ。
責めるつもりも、なじるつもりも、毛頭ない。付き合ってくれなんて、おこがましい事も考えたことない。
それでも、本当にちょっとだけ、たまにチクリと胸が痛い、本当に些細なことで、気にした事なんかないし、ましてやそんな独占欲なんか出そうもんなら、この男は帰ってこない。だから、今まで絶対に言わなかったのに。
「・・・おい、うい、お前そんなに俺が好きか」
「え、あ、うん、好きだよ」
「俺様を独占したいか」
「うーん、香西は好きにしてていいんだよ?」
「俺を、独占したいかって、聞いてんだ、あ?」
ぐりぐりとおでこを引っ付けられ、視界が揺れる。
痛いくらい握られた腕も、そろそろ痺れて来て、痛い。
「うい、言え、俺を独占したいって」
「えぇ?、そんな事言えないって」
「言えよ! 俺が欲しいって言え!!」
「えぇー、じゃあ、えっと、香西を俺に下さい、これでいい?」
「・・・っとに、なんでそんな嫌そうなんだよ!!」
「う、うーん、こんな事になるなんて思ってもなかったからかな」
まさに棚から牡丹餅的な感じで、俺はこの現実が夢とかそういう風にしか捉えられず、なんだか夢見心地だ。
周りの子は、泣いて縋って、なじってでも、香西を独占したいって言うんだろう。情熱的に求められるから、今でも下半身ゆるゆるなんだし。
ぎゅーっと、今度はしっかり抱き締められた。ちゅっちゅと、小鳥のようにあっちこっちキスが落ちてくれば、悪い気はしない。
「ほら、香西、ご飯は?」
「食う、その前にういが食べたい」
「こっ、こら、香西!」
ベッドに簡単に持ち上げられた事よりも、手から落ちて行く課題のノートも、回したままの洗濯物も、多分何もかも香西には敵わない。
それは、きっと香西が美形だからとか、そういう問題じゃなくて、初めて、キスしてくれたからかもしれない。
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