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その男、危険な香り02
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男の親指が繊細な触れ方で唇をなぞる。
その焦れったい動きに吐き出した呼気は熱く、逢沢の興奮を煽っていった。
(ついに、ついにこの時が……!)
逢沢の鼓動が爆発的に速く、強く、鼓動を打つ。
「ゆ……きさん」
甘美な喜びを与えてくれるであろう、愛おしい唇が僅かな距離を埋めてゆく。
(あと少し。後、もう少しで夢みていた憧れの貴方とのキスが……──)
しかし、
「おーい! 逢沢ちゃーん!」
後一センチ……と思った瞬間であった。
逢沢の閉じられていた瞼がパッと開く。
「聞いてる? あーいざわちゃーん」
この軽薄そうな声は一体どこから?
まさか、目の前の美丈夫から?
いや、そんな訳がないと逢沢が再び瞼を閉ざそうとしたその刹那。
甘い世界がグラグラと揺れ動く。
足場が不安定なほど揺れて、驚き、結城に抱きつこうとした瞬間──二人だけの空間にパリパリとヒビが入った。
「ゆ、結城さんっ?!」
「ごめん、逢沢。残念だけど今日も時間切れみたいだな」
うっとりする様な甘い笑みで結城が言う。
嫌だ、離れたくない。
そう言い必死にしがみつく逢沢の声も虚しく、結 城の姿はみるみるうちに無色透明へと透けて行くではないか。
脳内に能天気な声が響き渡る度に、今にも口づけを交わす筈だった美丈夫は霧の様に姿を消してしまう。
止める術もなく、ただ見る事しか出来ない事に逢沢は嘆きの声をあげた。
「い、いやだ! 今日こそは、今日こそはって思って歯磨きしてたのにぃ!」
待ってくれと幾ら願おうとも、待ってはくれない。
宝石のような笑みを向け、悪魔のように手を振る結城。
必死になり伸ばした逢沢の手は、とうとう虚しくも空を切った。
「──結城さぁぁん!」
肺に残る酸素と引き換えに腹の底から声を上げる。その反動にハッと目を醒ます逢沢はキョロキョロと辺りを見回し、大きく嘆息した。
眩しい世界に写ったのは、甘美な口付けをくれる筈であった想い人でも、憧れている男でもない。寧ろお世辞にもかっこいいとは言えない男である。
逢沢はもう何度目かも分からぬ夢オチに心の底から溜息を零した。
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