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その男、危険な香り08
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だからこそ、誰かを想い傷つく痛みにさえ憧れた。
それが例え叶わぬ恋に涙を流す姿だとしても、逢沢には眩しくて、ただただ羨ましかった。
涙を流せるほど人を想えることが、それが許されることが羨ましくて、心のどこかで妬んでもいたのだ。人とは違う自分は、誰かを愛することさえ許されないのだと逢沢は自分に自ら枷を嵌めていた。
しかし、そんな氷のような逢沢にも春は訪れる。
今から三年前の入社式、天井高く設備も最先端の技術が完備された完璧なホールで、逢沢は息を止めた。
集まった逢沢を含む新入社員へ、笑顔で挨拶をした彼に一瞬で恋に落ちたのだ。
まさか自分が。この自分が。
呆気なく恋に落ちるだなんて。
ましてや一目惚れだなんて、何か病にかかったのではないかと当時は本気で通院も考えたものだ。
後に恋煩いの病は拗れるに拗れ、妄想癖という厄介なものにまで進化を遂げたわけだが。
この三年間、逢沢は生きてきた中で最高の幸福を味わっていた。
その理由は先程、愚痴を話して帰って行った先輩の言葉が総てを物語っている。
逢沢の想い人──結城冬吾に人一倍可愛がってもらえている事が、逢沢にとっての至極の幸せであった。
可愛いがられている事実は、逢沢の自惚れでも勘違いでもなく、周りも認めるほどに結城は逢沢を相手にすると甘くなる。
後輩に対する態度と言うよりは、ペットにするそれと同じ気がしなくもないのは拭いきれないが、逢沢にとってはそんなことは道に転がる小石程些細なことだ。
好きな人に触れてもらえる。
好きな人に名前を呼んでもらえる。
好きな人の傍に居られる。
──好きな人を、好きで居られる。
たったそれだけだが、逢沢にとっては奇跡にも近い今生の幸せを使い切っていると言えるほどに今が絶頂の幸せなのだ。
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