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その男、危険な香り13
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しかし、息を整えた刹那。
伸びてきた結城の手が頬に触れ、平常心だなんてものは呆気なくどこかへ吹き飛ばされてしまった。
「ッ、何……?!」
「ああ、前髪が顔にかかってたから。いつもこうして耳にかけてるだろ?」
「じ、自分で出来ますッ」
咎める様な口調で、迷惑なふりをするが胸中は驚きと感動で溢れかえっていた。
急に触られれば酷く驚くし、心臓には悪い。
けれど記憶に覚えてもらえていたのが何よりも嬉しい。普通、他人の髪型なんて覚えないだろう。ましてや長かった髪をばっさり切った訳でもあるまいのに。
長めの前髪を長し耳にかけているだなんて記憶にも残らないだろう小さな事を覚えてもらえていたのが嬉しいのだ。
ドキドキと心臓が跳ね上がったまま空を飛んでいる様な浮遊感に逢沢は落ち着けと胸中で呟く。
幸にも表情は変わらず、感情は伝わらない筈だが、片思いをしてるだなんて気づかれては昔のようになってしまうと逢沢は息を詰めた。
けれども
「逢沢は本当に可愛いね。だから皆にからかわれるんだ」
なんて事を、目の前の美丈夫はなんて事もない様に言ってしまう。
せっかく、せっかくこうして平常心を保とうとしているのに貴方って人は──なんて言いたくても、見慣れた優しい笑みに文句はつけれなかった。
結城のこの笑みが、氷の様な逢沢の雰囲気を丸くしてくれたのだ。
学生の頃に起きたある出来事で、逢沢は今よりもうんと表情が硬く、人を寄り付かせないように振舞ってきた。
その癖は大学を卒業し、この会社に入社した時にも変わらないまま。
そんな逢沢を生意気だ、嘗めていると目につけたのはひとりやふたりではなく大勢の先輩達だった。
そう言われてしまうのも当然で、笑顔一つ作れず言われる前に何事も出来てしまう逢沢は可愛さの欠片もない。逢沢自身、こうなる事には慣れていたが、想像を絶する陰湿さにほとほと疲れて果てていた。
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