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その男、危険な香り17
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どれだけ逢沢が懇願しようとも結城は譲る気などこれっぽっちもないのだろう。
その証拠に迫るのは煮玉子だけではなく、彫刻のように整った秀麗な顔までもが逢沢へと詰め寄ってくる。
今にも破裂してしまいそうな心臓を抑えつけ、逢沢は薄く膜を張り出した瞳を瞑ると結城の箸へと噛み付いた。
「美味しいかい?」
「……わ、わかりません」
「んー、それは困ったなぁ。じゃあ次は」
「美味しいです! とても美味しいのでもう結構です!」
「あ、そう?」
まだこの拷問は続くのか。
逢沢は赤い頬に青い額と言ったなんとも不思議な表情を浮かべるとこれでもかと言うほど両手を振り拒んだ。
そんな逢沢を見て結城は満足そうに微笑む。その様子を見ていた周りは相変わらずの溺愛ぶりに呆れを通り越し、ある意味感嘆の眼差しをも向けていた。
そんな事を当の本人である逢沢は知らないのだから、なんとも不憫だ。
結城が逢沢の反応を見て楽しみ弄んでいる事は周知の事実であった。
しかしそんな沈黙を決める周りを差し置いて、唯一この状態に水をさす男が一人。
「おいおい、あんま逢沢を苛めんじゃねぇよ」
「可愛がってるの間違いじゃないか?」
「よく言うぜ」
砕けた言葉で会話をするのは水島宗吾。結城の同期であり、友人である。
聞くところによると付き合いは長く、短くとも大学時代からの仲だとか。逢沢は水島を一瞥すると再び思想にふけた。
「おい、変なこと考えんなよ逢沢」
「……変なこと、ですか?」
「俺と結城はダチでもなんでもねーからな。勿論それ以上でもそれ以下でも」
「……ツンデレさんですか」
「お前もなかなか図太い神経をしているな」
妄想の世界へ飛び込む寸前に引き止められ、逢沢は微かに眉をしかめた。
しかし水島はそんな細かな事に興味はないのか筋骨隆々とした見た目通りに豪快な飲みっぷりを見せた。手に持つジョッキの中身を一瞬で空にする。
口の周りについた泡を手の甲で拭うと、野性味を帯びた瞳でメニュー表を眺めていた。
本来ならこの打ち上げは結城の為に開かれたものと言っても過言ではない。だが結城本人はそういったもてはやされる事を苦手とし、いつの間にやら時季外れの宴会へと形を変えた。
そうして我先にとこの宴会を楽しんでいるのは目の前に座る男、水島である。
ショートカットの黒髪に、同じく鋭い光を宿したやや釣り気味の双眸。肉食獣をも連想させる荒削りな相貌はワイルドさがあり結城とはまた違った色男だ。
本人は全くの無自覚な為、今は恋人どころか女っ気一つもないと気の知れた仲間にからかわれている所を目にしたことがある。
一方逢沢はそんな水島を心の隅でほんの少しだけ対抗心を燃やしていた。
逢沢自身がこうなりたいと思い描いた姿を余すことなく水島は持っている。そして何よりも慕っている結城の一番と言っても過言ではない親友の立ち位置にいる事が羨ましくて妬ましかったのだ。
どれだけ可愛がられようとも、会社の枠を超えればただの他人でしかない。けれど水島は違う。会社での顔だけでなく、日常生活を送る何気ない結城の一面だって知っているのだろう。
理由なきまま隣にいる事を許されてしまう、友人と言う枠に逢沢は憧憬し焦がれた。
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