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怯える。
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教室に、戻る気にはなれなかった。
廊下に鳴り響くチャイムを無視して、冷えたいちごオレを握りしめる。自販機でアタリが出たのに、いつになく俺はイライラしてて。
電子版には3つ7がでて、もう1つ買えるってわかった途端出てきたのはアイツの顔だ。
普段何飲んでんだっけ、とか、どれを渡したら喜ぶのか、とか。
他人のこと考えて行動するとか俺らしくねえしムカつく。
なんだこれ。イライラする。
キモ川は、あのなんの取り柄もなさそうな地味でメガネで弱そうな目立たない教室の隅の住人は、俺にとってそんな奴じゃなかったはずた。
どうでもよくて、どう扱ってもどう転がしても俺の人生になんの支障も来さない、ただの暇つぶし人材。
そんなやつの、誰かのために書いたラブレターを未だに大事に胸元に保管して、今となっては約束通り時が来たら返そうとまで思ってる。
俺がもし、このアタリのジュースをキモ川にやったとして、それであいつが喜んだとして。あいつには他に好きな人がいて、その事実は変わらない。
とか、どうでもいいことを考えてる俺。
変だ。
その後の授業は、屋上で過ごした。
いい天気だったし、運がいいことに誰もサボりに来なかった。
昼休みになって財布を取りに教室へ戻ると、怯えた顔のキモ川が珍しく俺の目の前に立って行く手を阻んだ。
「あ?なんだよ。なんか用か」
「あっ⋯えっと、その⋯ネクタイのこと、」
「⋯んだよ返しただろ。なんか文句でもあんのか」
「えっ、いや、そんなんじゃなくて⋯⋯ごめんなさい」
「は?なんで謝んだよきめぇな」
「きめぇ」と言うと同時に、こわばった肩がびく、と揺れる。
「ぼっ、僕が⋯変な事言ったから、怒って返したのかな、って⋯」
「変な事?」
「あっ、いや、違うんならいい、です」
「⋯⋯。」
こいつは、誰にでもそうなんだろうか。
誰に対してもこんなに怯えて、言葉を選んで、身体をこわばらせて、
顔を、赤くして。
「⋯なぁ、」
「は、はいっ」
「お前の好きな奴って誰?」
「⋯⋯⋯え、」
あれ、なに言ってんだ俺。
特に気になってた訳でもないのに。
「あっ⋯⋯ぁ、の、」
わかりやすく動揺してる。
別に、上手いことはぐらかすでも言わないでも良いのに。
目を泳がせながら、みるみる顔を赤く染めていく。
「ごっ⋯⋯ごめん、なさ⋯」
なんだそれ。
「何、言えねぇような奴なの?」
「あ、の、ほんとに⋯」
うっそだろ涙目になるほどかよ。
そんなにお熱か。
「⋯ま、どうでもいいか。それより昼飯買ってこい。なるべくカロリー高めなやつ」
「は、はいっ」
自分から話題を振っておいて話を切り上げたのは、あれ以上聞き出すとマジで泣きそうな顔してたから。
興味はない、なのにどれだけ好きかは嫌ほど伝わってきて、それにイライラしてる自分。
まじで、意味わかんね。
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