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亜沙樹と薫
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「薫ちゃんは可愛いわねぇ。
お兄さんなんだから、ちゃんと守ってあげないと駄目よ、亜沙樹」
それは、ずっとずっと、言われてきた言葉。
母から父から祖母から祖父から、叔母から叔父、近所の大人にまで。
俺はそれを守ってきた。
可愛い弟の薫と、大人たちに言われたことをずっと。
大学生になった、今でさえも。
「薫、起きろ薫。今日朝から講義だろ、遅れるぞ」
同じ大学に通って、同じ学部に入り、同じアパートで2人暮らし。
俺、咲田 亜沙樹(さくた あさぎ)と、双子の弟咲田 薫(さくた かおる)の2人で。
「んー?あさにぃ?」
「ほら起きろ、マジで遅れるぞ」
「んーーーねーむーいー」
「こら寝るな」
目をこする姿すら絵になる弟は、高校まで黒くて綺麗だった髪をブロンドに染めて、余計にキラキラオーラが増している。
ちなみに俺は何もしてない黒だけど。
「朝ごはん出来てるから、顔洗ってこい」
薫の頭を軽く叩いて、俺も腰をあげる。
「さすがあさにぃだよ。僕あさにぃがいないと生きて行けない」
どうやらもう目は覚めたのか、ニコニコと笑顔で俺に笑いかける。
「本当だな」
俺もそう笑い返すけれど、それを言うのはこちらの台詞だった。
俺の方こそきっと、薫が居なければ生きていけないのだろう。
薫がいるから、俺がいる。
薫を守るために俺がいる。
薫という存在があってこそ、俺という兄の存在があるのだ。
周りから見たら、俺たちが双子の兄弟だなんて思わないだろう。
金髪で、明るくて、可愛い弟と、
黒髪で、平凡で、地味な俺。
同じ兄弟でありながら、その有り様は全く違う。
薫の周りにはたくさんの人がいて、
俺には薫しかいない。
そんな弟が、俺の誇り。
行ってきます、と家を出て。
「やだな、あさにぃ。またそんなことして」
最初は隣を歩いていた俺は、大学の敷地に入ると、薫の一歩後ろを歩くのだ。
薫の背中を見て歩くのだ。
これが、俺の日常。
今までずっと、守り通してきた俺の日常。
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