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水の方がマシでした
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「あれ、薫ちゃんじゃーん」
「なになにお出かけ?俺らもついてくー」
と、目的のピザ屋の前で薫の友達と出会ったはいいが、俺は友達ではないのでわからない。
「ごめんね、今あさにぃときてるから」
と薫は俺の服を掴む。
その瞬間2人から視線が向いて、明らかに失望したような顔をした。
ーあぁ、また。
もうそれには慣れてしまった。
薫の兄ってだけで変に期待する奴らが悪い。
「あさにぃって、兄貴なの?こいつ」
「うんっ」
「全然似てねー」
それは本人がいないとこで言えよ、と心の中で思った。
口になんて出せない。
だって薫が悲しむだろ?
「え、似てない?あさにぃのこと、悪く言うの?」
少しだけ悲しそうな表情をした薫にその2人は慌てた。
「いや、ほら、いい意味でだよ!」
嘘つけ。
「違うのが当たり前だから!」
「そうかなぁ」
なんだこの2人、薫に取り入りたいだけじゃないか。いや、まぁ薫に寄って行く人はほとんどがそうだろうけど。
小さくため息を吐く俺を、2人の男は見逃さなかった。
「薫ちゃん、どれ食べる?」
「これなんかおいしそーだよ」
「わぁ、本当だ」
結局ピザ屋までついてきたそいつら。
俺なんてそっちのけで2人は薫を挟んでワイワイと話している。
「トイレ行ってくる」
と、なんとなく気まずさに誰も聞いていないだろうけれど一応そういって席を立った。
手を洗ってトイレから出ようとした時、扉が開き薫と一緒にいるはずの2人が入ってきた。
あぁもうほら、嫌な予感しかしない。
「お前さ、なんなの」
「何が」
「薫ちゃんに気に入られてさ」
ほら、薫のことだろ?
「兄弟だからな」
「関係ねぇよ。うざいんだよその気に入られてて当たり前みたいな態度が」
「理不尽だな。そんな態度とった覚えはない。」
まったく、誤解も度を越すと馬鹿馬鹿しい。
「薫ちゃん可愛いのにさ、お前と一緒にいると格が下がるっつーか」
格ってなんだよ格って。
確かに俺は可愛くもカッコよくもないが、さすがにそこまで言われる筋合いはない。
「とりま、これから俺らが薫ちゃんと遊びに行くから、オニーサンは帰ってくれない?」
一瞬、友達ならそっちの方が薫も楽しいんじゃないかと思ってしまった。
『ちゃんと守ってあげないとダメよ、亜沙樹』
浮かんでくるのは、もう頭に染み付いたその言葉。
「無理」
「は?」
「あんたらに薫を任せるのは無理だ」
つーか先約俺だし。
そう言うと、2人の顔がみるみると歪んでいった。
「まじウゼェ。なに、ブサイクのくせに兄貴ヅラとか腹いたいわ」
「俺らといたほうが薫ちゃんも絶対楽しいって」
そう、なのかもしれない。
俺といるより友達の方が薫のためかもしれない。
「だからさ、消えて」
『私の前から消えて』
どこからか重なって声が聞こえた。
俺のでも2人のでもない、声が。
『生まれてこなければよかったのよ』
『※※※だけでよかったんだ』
なぜ今日は、こんなのばかり。
誰かもわからないのに、何かも知らないのに、泣きそうになるのはどうしてだろうか。
「おーい、聞いてるー?」
「は、きみ悪りぃ。行こうぜ」
2人の声が遠くに聞こえ、ハッと我に帰った。
「まて、……っ!」
すかさず止めようと手を伸ばしたがしたが、肩を強く押されてバシャンっと、すぐ後ろにあった和式のトイレに倒れこんだ。
「っ、」
「うっわ、きったねー」
「行こうぜ、薫ちゃんが待ってる」
また止めようとしたけれど、こんな姿じゃ薫にも見せられるわけもなく。
怪我をしなくて幸いだったなんて考える余裕もない。
「……痛いし、………最悪だ」
なんで俺ばっかり、と。
1人、唇を噛み締めた。
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