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奇行
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あさにぃ?とすぐ近くで薫の声がした。
きっと、この扉一枚のすぐ向こうに薫がいるのだろう。
「とにかく、俺だけでも出るぞ」
そう言って扉を開けようと伸ばした手を掴まれ後ろに引かれた。
「え…っ!?」
傾いた体がすぐ後ろの神凪に支えられ、なにすんだと声を出そうとした口を後ろから手で押さえられて塞がれた。
「行くな」
『まだ行くな』
「ここにいろ」
『ここにいればいい』
あれ、なんだこれ。
神凪の声の上から重なって聞こえるこの声はなんだ。
俺はそれを知っている…?
あさにぃー?ともう一度聞こえた薫の声に、俺の体に回る腕と口をふさぐての力が若干強くなった。
もう抵抗しないという風に力を抜いても神凪は離れてくれない。
やがて薫の声と足音が遠ざかって行き、完全にその音が聞こえなくなったのを確認し離してくれと神凪の腕を叩いてもまだ離してくれない。
「いつまで」
そう紡ぐ。
「いつまで逃げる?」
「?」
「いつまでお前はあそこにとどまってる」
「なに言ってんだ…、」
無理やりに口を塞ぐ手を引き離し、狭い倉庫の中で距離をとる。
「お前、なにどうしたの、なんか変なもんでも食った?」
そんな、俺を知っているみたいな言い方。
だってお前は俺の記憶の中にはいないのに。
「なんか人違いとか、」
俺じゃないと否定しているのに、心が痛いのはどうしてだろう。
一歩、神凪が踏み出したと思った瞬間。
「ッ、!?」
両手で顔を包まれて、そのまま優しく口を重ねられた。
口、を……。
「おま…、おまっ、なにっ!?」
驚いて身を引くよりも早く、力強く抱きしめられた。
「あー、もう。こら離せ、そして俺のファーストキス返せ」
もうはんば諦めていた。
コイツは突拍子もないことをする奴だったと。
きっと今のもなにも考えず行動しただけなのだろうと。
「違う」
抱きしめられているせいで神凪の顔は見えないが、悪戯っぽく笑ったような気がした。
「今のは2回目だ」
「え、」
何かを言う前にすっと体が離れていく。
「待ってる」
「おいおい、ちょいまて、意味わからんし」
「早く」
スリ、と神凪の手の甲が俺の頬を撫でる。
「早く俺の、」
そこからは声が小さすぎて聞こえなかった。
ただ口が動いた神凪の顔が泣きそうな優しいような顔でなにも言えなくなった。
「なんなんだ」
探ろうとするたび頭が痛くなるわけでも黒い霧が邪魔するわけでもない。
ただいえるのは、はっきりした俺の記憶はそれで全てのはずなのにどこかが足りなくて寂しいような変な感じがするのだ。
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