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誰がために 2
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並べられた机の1番後ろの窓側にうつ伏せになって寝ていたらしいその男は、扉の前に座り込んでいた俺を見つめる。
「……」
起こされたことに、怒らせてしまったのだろうか。
いやそれより俺泣いてるから。
見られた、泣いているところ見られた…!
「あっ、いや、えっと………お、おはよう…?」
「……」
急いで滲んでいた涙を拭い、取り繕うように早口でそういったが、返ってきたのは沈黙だけだった。それはそれで悲しいのだが。
カタンっと音がして、その男が椅子を引きゆっくりと俺の元へと歩いてきた。
ーたっけぇ…
俺も平均は超え低い方ではないのだが、約頭一つ分俺より高かった。
俺の前で立ち止まったけれど何か言うわけでもなくただ俺をまっすぐに見つめる。
ーしかも目つきわる…
睨みつけるようなその視線はまっすぐに俺へと向かってくる。
背が高いうえに鋭く尖った目のせいで威圧感がすごい。
「泣いてる」
「えっ、」
いきなり突かれたくないところを躊躇なくついてきた。
「これはあれだ、わさびが染みてな、」
「……」
思いっきり不審そうな顔するこの男はデリカシーというものがないのか。
「泣いていた」
「だから、」
「悲しそうに泣いていた」
「………はぁ?」
これはまじか、全部聞かれていたかんじなのか。
「よしわかった、今日のことはお互いわすれ…」
「どうした」
「………」
こいつには話を聞くという概念がないのか。
「なんで泣いてる」
「あ、あのな、こういう時は聞かないのが思いやりってもんだぞ」
「なんで泣いてる」
「……っ振られたんだよ!」
聞いてくる男は無表情で、なんでそんなに聞いてくるのかわからないほどだ。
あぁもうせっかく落ち着いてきたのに。
「あさにぃ!!」
「っ」
薫の声がした。
正直こんな時に薫には会いたくなかった。
だって、もしかしたら自分の勝手な我がままで薫にひどい態度を取ってしまうかもしれなかったから。
薫は俺が夏樹先輩を好きだったなんてしらないはずだから。
また思い出して少しだけ滲んだ涙を無理やり拭い、ドアに手をかける
「悪い、弟きたから行かなきゃ」
その声が震えていたことに気付かないで欲しかった。
開けようとした直前、もう片方の腕を引かれて後ろから抱きしめられた。
「はっ、ちょっ…!!」
腰に手をまわすような形でがっちりと抑えられる。離せと言おうとすると口を手で塞がれた。
だんだんと近づいてくる足音とあさにぃと呼ぶ声。
それは紛れもなく薫。
離せってと、もごもごと動くも俺より大きな体は俺より強い力で押さえ込んでくる。
耳元で低い声で言った。
「まだ行くな」
ここに、と。
「ここにいればいい」
それは、きっとそいつなりの気遣いだったのかもしれない。
そう言われて俺はもう抵抗するのを止めた。
そいつは薫が立ち去ったあとしばらくしてやっと離してくれた。
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