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誰がために 3
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「………」
「………」
空き教室に2人無言で地べたに向き合い座って、
目の前の男は変わらず無表情で俺を見ている。
俺はというとそんな男を見れずに俯いて床をずっと見ていた。
よくよく思えば俺こいつが誰かしらないんだが。
「……えっと…俺、2年の咲田亜沙樹。お前は?」
名乗るなら自分からっていうだろ。
「2年神凪颯助」
「ん、神凪な」
同い年でよかったと思った。
動揺してさっきから敬語なんて使ってなかったから。
「色々ありがとう。」
「もう、」
「うん、大丈夫。じゃ、俺本当にもう行かなきゃだから」
「……あぁ」
涙は引いた。
未練も切れた。
目の腫れもきっと治ってる。
だから、もう行っても薫にはバレないし、薫を傷つけることもない。
立ち上がってドアを開ける。
時間がたって先ほどよりも廊下にはだれもおらず、窓から差し込む日はもう暗くなり始めていた。
扉を開けて、首だけ神凪に振り返る。
「本当ありがとう」
それには返事はなくてただまたじっと俺の目を見ていただけだった。
それを見て、クスリと苦笑した。
深夜。
ガタガタと家のキッチンで1人頭を悩ませる。
神凪にお礼がしたかった。
ただ、俺ができるものと言ったら少なくて、弁当くらいなら作れるかなとキッチンに立ったものの、相手が作ってきたら意味がないよなと思ったのだ。
「………あさにぃ?」
トイレにでも起きたのか、目をこすりながら部屋を覗いてきたのは薫だった。
「どうしたんだ、薫」
「なに、してるの?」
「………、お礼がしたくてなぁ」
「そっか、あさにぃ料理じょーずだもんねー」
へへ、と笑った薫にもう寝なさいと声をかける。
「あさにぃのおかず、家に持ち帰りたいくらいだもん」
じゃあおやすみーとひらひらと手を振って階段を上がっていく足音がした。
「家に持ち帰りたい………あ、そだ!」
薫のおかげでいいことを思いついた。
食材も全て揃っていたし、あれなら作れそうだと顔をほころばせる。
「はい」
「…………なに」
翌日の昼休み。
正直居るかどうか不安だったのだが、昨日の放課後の空き教室に行ってみると、案の定昨日と同じ場所、昨日と同じ格好で神凪が寝ていた。
神凪を起こし、持ってきたパックを差し出した。
「昨日のお礼」
「………」
いらないという顔で俺の顔を見るものだから、押し切ろうと、パックをそいつに押し付けた。
「うん、まずかったらごめん。1番得意なやつだからマシな方だとは思うんだけど」
「中身」
「ん?」
「なに」
「え?小魚の佃煮」
「……」
そう言うと神凪は無言でそのパックを見つめた。
その反応に慌てる。
「も、もしかして嫌いだったか…!?」
「いや………」
渋いなと小さく聞こえたが、嫌いでないのならまぁよかったのだろう。
「家で使ってくれ」
「ありがと」
「おう!って、そういやお前昼ごはんは?」
それは純粋な疑問だった。
俺はその時はもう食べていたし、ずっとここで寝ていたのならまだ食べていないはずだから。
けど持ち物っていう持ち物も持ってないし。
「めんどくさい」
「はい?」
朝昼晩1日3食を徹底している俺にとっては、衝撃の言葉だった。
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