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誰がために 10
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それは午前の体育の時の出来事。
俺たちの体育の先生は放任していて、生徒たちはグラウンドで自由に遊んでいた。
サッカーをする者、ドッヂボールをする者、野球をする者。
俺はそれをただ座って見ていた。
その時チリンと鈴の音が聞こえた。
横を見ると、黒猫が体操座りしている俺の足に顔をすり寄せている。
「か、可愛い……」
頭を撫でようと手を伸ばしたのに、その手が猫に届く前にニャンッとひと鳴きして離れてしまった。
「あ、ちょっと待って!」
抱えて撫でてス、スリスリしたい。
猫に一目惚れをした俺は授業中だということも忘れて無我夢中でその猫を追いかけた、んだけれど。
ソイツはあろうことか学校で1番大きな桜の木に登り、挙句降りられなくなったらしく、細い枝の端で動けなくなっていた。
そして猫を助けようと俺もその木に登ってしまった。
ー勢いで。
「ニャオン」
「あ、待てこらそっち行くな馬鹿!」
助けようと手を伸ばしたのに、また奥に行こうとするものだから、一か八か勢いをつけて猫を抱き寄せた。
バキッと音がした時はしまったと思った。
腕の中の猫を強く抱きしめ、襲ってきた浮遊感に、すぐ来るであろう痛みを覚悟する。、
けれど、
「っ」
息を張り詰めた音と、ドスッとした鈍い音。
落ち着いた浮遊感と包み込まれているような感覚。
強くつぶっていた目を開けると、視線の中に映った神凪の顔に驚いた。
慌てて離れて、怪我がないことを確認しほっと安堵する。
まさか下にひとがいるなんて。
それも神凪だなんて。
「何やってんだ。授業中だろ」
「いや、…………ね、猫を追いかけてました」
「……」
つ、辛い。
この沈黙は辛い。
絶対何やってんだこいつって思ってる。
「す、スリスリしたかったんです…」
「…………はぁ」
小さく聞こえたため息と、ドサリと座る音。
「そういうとこもあんのな」
「何が?」
「子供」
多分、馬鹿にされた、、んだと思う。
図星すぎて何も言えないです。
てことで、話を変えようと思います。
「それはそうと、なんで神凪はここにいるんだよ。お前こそ授業中だろ」
「……自習中」
それがなんとなく嘘だってことはわかった。
そういえば、
「あ、そうだ。今日さ、ケーキ作って来ちゃったんだけど、食べる?甘いの平気?」
「食べる」
「よし、じゃあ持ってく」
「…………だからか」
「うん?」
神凪はいきなり近くに寄って顔を寄せ、スンッと鼻で息を吸い込んだ。
「甘い」
甘い、というのはきっとケーキの匂いだろう。
お風呂に入った後に作ったから匂い染み付いてしまってたのか。
神凪は、どことなく猫に似ているかもしれない。
つり上がった目とかもだけど、気まぐれの猫のようだ。
だからこんなに構ってしまうのだろうか。
「今日はさ、ここで食べない?」
「………なんで」
そう言ってみたその目は、いかにもめんどくさいと言っていた。
「あったかくて、気持ちいいし」
「………めんどく、」
「ハンバーグなんだけど」
「………わかった」
ため息をつきながら渋々頷いた様子にクスリと息が漏れた。
なんだか餌付けしているような気分だ。
「あ、冬樹さん呼ぶ?」
「………いや、いい」
まだ、気を遣ってくれているのだろうか。
多分、いやきっと神凪がいてくれれば大丈夫な気がするんだ。
懐かれてみたい、手懐けてみたい、この猫を。
何をしたら、もっとすり寄ってきてくれるだろうか。
いやそれとも、手懐けられているのはこちらの方だろうか。
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