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誰がために 19
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抱きしめられたま沈黙が続いた。
神凪はどうしてそこまで言うのだろう。
「俺の意思なんてどうでもいいよ」
俺以外の周りにとって、俺の意思なんて感情なんて全てどうでもいい。
意味のないものを一生懸命に訴えて、何が変わるのだろうか。
それがどうにもならないことなんてわかりきってる。
そう言った瞬間、ぐっと巻きつく腕に力が入った。
「いっ、か、神凪痛い…っ、」
その力があまりにも強すぎて思わず声を出した。
「俺を頼ったのはなんで?」
「神凪っ」
「少なくとも、」
気づいてくれたのか、力を弱めながら、でも手は離さずに神凪は続けた。
「俺はお前に応える」
それだけのことをお前はしていると。
なんか、なぁ。
なんでこんなに神凪は優しいのだろうか。
「神凪は優しいな。
俺、さ、やっぱ周りが信じてくれないってのは辛かったりするわけだけど、結構お前1人に助けられてるんだよ」
別に直接的な接触はなくて、制裁なんてされてる奴らに比べたら俺なんて恵まれてる方だ。
けど、神凪との昼休みのあの時間だけでどれだけ俺が救われてるかお前は知らない。
「ごめんな、俺がこんなんじゃなきゃ普通にできるのに。お前に何かあるなんて考えなくていいのに……」
「そうじゃなくて」
「おわっ」
巻きついていた手は離れ、ぐっと肩を握られた。
「お前はどうしたいんだ」
温もりが消えて、だんだんと体が自分1人だけの体温に戻っていく。
それを感じながら、俺は口を開く。
「1人って、寂しいんだよな。薫もいないし」
「咲田、」
「だから、一緒にいてくれたら、いられたら嬉しい」
「、あー……」
あぁ神凪。
我儘を言ってもいいだろうか。
願うならばもう一度、その手でその腕で優しく強く抱きしめてほしい。
「お前の隣ってあったかいからさ、離れたくなくなるんだ」
「……、咲田、俺は…」
ピリリリリリリリッ
突然鳴り響いた音に2人とも勢いよく顔を上げた。
その画面には「佐倉 冬樹」と写っている。
「……神凪」
「無視」
「こら。だめだろちゃんと出ろって」
「………はぁ」
ピッと軽い音が聞こえた後に電話口の向こうから明るい声が聞こえた。
『はいはい俺冬樹さーん』
「切るぞ」
『ごめんって。悪い颯佑、俺泊まれなくなった』
「………」
『あ、今嬉しいって思っただろ』
「よくわかったな」
『酷いなぁ。ま、そゆことだから亜沙樹君にもよろしく言っといて』
「わかった」
電話を切った神凪に寄ってみた。
「冬樹さん、なんだって?」
「………来れないだと」
「え、じゃあ2人?」
「だな」
なんだろう。
嬉しいような、気まずいような。
冬樹さんがいると安心したのは確かなんだけど。
「んーじゃあ、ご飯作るか。カレーでいい?」
ていうかその材料しか買ってないけど。
「なんでも。お前のは、上手いから」
ど直球は怖いって。
「時間かかるからさ、先風呂入ってきたら?」
「………けど」
「いーから。ちゃんと用意しときます」
「………わかった」
渋々というように立ち上がり、風呂場がある場所に歩いていく神凪が扉を閉めた瞬間、俺は体を埋めてため息を漏らした。
「なにもう、なんなの」
今更になって高鳴る鼓動に困惑した。
けれどそれは程よい速沙で、苦しいというよりは心地いい。
あぁそっか。
だってそれは、
「神凪、だから」
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