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誰がために 22
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「神凪」
俺が風呂に入っている間に用意されていた布団で横になりながら、起こしたら悪いなって思ったけれど恐る恐る神凪の名前を呼んでみた。
神凪の顔は、一段上がったベッドの上にあるから見ることはできないけれど、
「………なに」
と、静かに返ってきた。
「今日はありがとう。その、色々と」
「……別に」
泊めてくれたこと、抱きしめてくれたこと。
暖かかった、幸せだった。
「………、神凪」
「………」
返事はないけれど、聞いてくれていることはなんとなく気配でわかる。
それを察して俺は続けた。
「俺、クラスの友達とも、話してみようと思う」
「そうか」
「神凪のおかげだ」
けどわかってる。
こんなのはただのこじつけの理由だって。
神凪と離れようと決めて、これはそのためのただの言い訳に過ぎないから。
だから、
「だから、もう昼休み一緒にはいられないや。
あ、弁当は作るから。俺が強引に始めたことだし、途中で放り投げるなんてしないから」
「………おい」
「やっぱりさ、俺の方から歩み寄らなくちゃなにも進まないから、だから、昼休みの時間は終わりにしよう」
「………はぁーー」
大きなため息が聞こえた後、ギジリと揺れたのは俺の布団。
いつも間にか神凪は自分のベッドから降りて、俺の顔の横に左手をつき、右手の指先でで俺の髪を1束いじっていた。
「お前は俺を怒らせたいのか?」
「そ、」
そんなこと言ったって、お前がなにに怒ってるのかなんてわからない。
薄暗い部屋に、奇妙な空気。
のしかかられているはずなのに、全く重みは感じない。
「何考えてる」
「い、いや、だから、、」
やばい。
薄暗いせいで顔ははっきりとは見えないけれど、そのにある神凪に、神凪の声に心臓がこれ以上ないってくらいまでに跳ね上がって、はち切れそうだ。
そう、だから。
だから早く離れなければいけないのに。
「神凪……っ」
「咲田、」
するりとさっきまで俺の髪をいじっていた指先が俺の頬を撫でた。
なんだ、なんなんだこの状況。
やっぱり冬樹さんいて欲しかったと心の中で叫んでもどうにもならないのだから仕方がない。
「何考えてるか、言え」
「い、言ったじゃんか、!」
「正直に言え」
今考えていることといえば、切実に早く離れて欲しいということだけども。
間違っても、好き、なんて口走ってはならない。
「お前の考えてることは大体わかる。
気遣いなんていらないし、迷惑なんて思わないから俺には全部言え」
なんで、こんな時だけ饒舌なんだよ。
いつもは何考えてるかわからないくらい喋らないくせに。
俺は、お前の考えてることわからないのに。
そんなの、
「……………ず、ずるい‥っ」
「は?」
「お、俺ばっかり言うのずるい。
俺、神凪のことなんも知らないのに、俺ばっかり、!」
もうやけくそで、泣きそうになりながらそう叫んだ内容を理解してすぐに後悔した。
それじゃあ、離れると言ったそばから神凪が知りたいと言っているようなものだ。
「………わかった」
「?神凪、?」
「お前にははっきり言わないと伝わらないっていうのがわかった」
そう言い切った後、別段何かをしゃべるわけもなくシィンとした空気が漂った。
わからない。
神凪のしてること、したいこと言いたいことがわからない。
それがなぜか、とてつもなく悔しい。
会話はそれで終了なのか、そこから神凪は何もしゃべることはない。
「か、神凪……」
とりあえず、だ。
「近い…」
思っていたことを訴えてみた。
早く俺から離れてほしい。
バレるから、響く心音と体を支配する熱がバレるから。
「………………悪い」
すっと離れていった神凪の体は元のベッドの中へと沈み、多分こちらに背を向けてしばらくして微かな寝息を立て始めた。
俺はというと、そんな嵐みたいな出来事にまだ音を立てて落ち着かな心臓のせいで、眠れなかった。
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