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君がために 6
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「はい、どーぞ」
学校も終わり迎えに来た颯佑と一緒にスーパーに行き買い物をしたのはついさっき。
颯佑の前に本来の目的である"もの"を差し出した。
「これ、」
「俺特性焼きプリンです!つっても前に颯佑がくれたものパクっただけなんだけど」
美味しいものは作りたくなる。
菓子系はあんまり得意ってわけじゃなかったけど、それと作りたくないは別だ。
しかもそれは颯佑にもらったもの、だから。
「あの店には全く及ばないけどさ、俺なりに作ってみた。色々作ったことはあるけど焼きプリンはまだだったし」
あの時は、人から自分のためにものをもらうっていうのが初めてで嬉しくて。
だから絶対お返ししようって思ってた。
それがこんなに遅くなったのは計算外だったけれど。
颯佑が俺の焼きプリンを口に入れるその動きを見て心臓の音が速まる。
味は、、そこまで悪くないと思うけど、なんて言われるか。
「…………」
「………ど、どう?」
もぐもぐと口を動かし、途絶えるとまたプリンをくちに入れる。
けれどその間喋ることはない。
「甘すぎ?濃ゆすぎ?硬い?柔い?」
颯佑には1番に食べて欲しいけれども、1番の完璧な自信作を食べて欲しい。
多分俺の作る料理は前より少しだけ甘い颯佑好みの味付けに変わっていると思う。
けれどそれがなんだか、嬉しかったり。
「………凄く上手い」
「よっ、よかった…!」
「あさの味だ」
「?そりゃ俺が作ったからかな」
俺の味ってなんだ。
そんなの、わかるのか?
「………店とかじゃなくて、俺はあさの作ったものが1番上手いし1番好きだ」
「っ、ったぁっ!」
そんなこと、料理を作る方からすれば、特に俺からすれば嬉しすぎる褒め言葉だ。
照れくささに思わず頭をさげるとガンッとテーブルに強く額をぶつけてしまった。
「あ、あさ…」
「だ、大丈夫、大丈夫大丈夫。……やっぱ痛い」
「……あさの作るものは、俺のために作ってくれたってわかる味がする。優しくてあったかい味があさの味だ」
こ、こいつ俺が恥ずかしいってわかってて言ってるのか?確信犯なのか?
「そんなあさが好きなんだ。
俺のこと好きって全部で伝えてくるあさが好き」
いや違う。
こいつの言いたいことがなんなのかわかった。
いつもは好きなんて言葉にしないくせに。
俺よりお前の方の好きだって全部で伝えてくるくせに。
「……、何かあった?」
颯佑はずっと気づいてた。
朝から俺の様子が少しおかしいって。
普通にしてても意味はなかったようだ。
だって、ずっと俺を、見てるから。
「……俺、颯佑の事大事だ」
「………」
「けど、薫も大事」
「………弟」
「うん。どっちかって言われると、多分俺……颯佑を取ると思う」
それは正直な気持ちだった。
つい一年前まで、いや多分まだ一年たたないくらいまで、薫が1番だったけれど。
今は、薫が颯佑の事を好きだと言っても夏樹さんの時のようには引き下がれない。
絶対、やらない。
「………あさ、一緒に住もうか」
なんて、魅力的な言葉。
「そしたら2人だ」
もうとっくに心は颯佑の方だと割り切っているのに、邪魔をするのは薫ではなくその血の縁。
家族だから兄弟だから兄だから。
俺の世界は今、俺と颯と薫。
二兎追うものは一兎をも得ず。
なら俺は颯佑を追うのに、後ろから薫が引っ張る。
「行かないで」と言われれば、俺は足を止めてしまう。
そんな、感覚。
親の愛情も初恋も全て薫に捧げた。
俺を縛り付けるのはそう、
『守ってあげないとダメよ、亜沙樹』
この呪いの言葉。
このの呪いを解けるのは颯佑だって信じてる。
カタンッと向かいの席に座っていたはずの颯佑が俺の隣へと腰掛けた。
「………隣にいる」
傍に、ではなく隣。
さすが颯佑、俺が1番安心する言葉を知ってる。
きゅっと小さく隣の颯佑の袖をつかんで握りしめた。
「帰りたくない」
「………あぁ」
「颯佑といたい」
「あぁ」
すり、と髪を撫でられる。
それがくすぐったくて、嬉しい。
「………俺、」
ピリリリリリリッ
遮られた着信音に、申し訳ないと颯佑を見ると大丈夫だと呟いた。
仕方なく携帯を開いて通話ボタンを押した。
「…はい、亜沙樹です」
『貴方なにやってるの!?どこにいるのよ!!
なんで薫がこうなってるの説明しなさい!!!』
ヒステリックに叫ぶ母親の声が響いた。
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