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変化(3)
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自由になりたい。何にも縛られることなく、人の目を気にすることもなく。
でも、お金がなければ生活もできない。人に頼らないと生きていけない。全て捨ててしまいたいのに、捨てられない。恋をしなければ、少しは自由になれる筈なんだ。好きじゃない、好きじゃないのに俺はこの人に縛られている。逃げられないように、この部屋という籠の中に閉じ込められて。それでも、この人は優しいから籠の扉はいつも開いている。
自由になるために逃げ出したいのに、逃げ出さない自分は何なのか。結局、自由になれないことを人のせいにして。何か逃げ道を作るにも、言い訳が、押し付ける人が必要で。いつか、この部屋から逃げ出す時、俺はきっとこの人を言い訳にして逃げるんだ。自分が傷つかないように。
恋をしようが、しなかろうが。この人の場合は意味がないのかもしれない。
「何苦しそうな顔してんの。嫌な記憶でも思い出したか?」
「いえ、別に。」
「聞かれたくないなら聞かない。」
この人は、俺が逃げ出したら何処まで追いかけてくれるのだろう。ずっと探し回ってくれる?それとも、面倒くさいやつだと見捨てる?どんどん、この人への甘えが増えていく自分が嫌だ。何を図々しく考えてるのだか。
「ご飯食べたら出かけようか。」
「本当に出かけるんですね。」
「そんなに嫌なのか?プロジェクションマッピング見に行こうと思っていたんだけどな。PR動画みたら、皐月が好きそうな雰囲気だったし。」
「嫌じゃないですよ。ただ、本当にゆっくり休日を過ごせばいいのにと思っただけです。俺がいない時は、休日ゆっくり家で過ごしていたんですよね?」
「そうだけど。皐月と一緒に楽しいことをしたいんだよ。」
確かに、プロジェクションマッピングは一度見に行きたいと思っていた。ただ、お願いだから俺が一緒にいることで、自分の生活を変えないでほしい。本人は気づかないだけで、ストレスや疲れがどんどん体に蓄積されていくのだろうから。
「わかりました。じゃあ、明日。明日行きましょう。そんで、今日は何もしないでゴロゴロ過ごしましょう。」
「そんなに今日は出かけたくないのか。生理か。」
「女性にそれ言ったら、ブチ切れられますよ。」
「さすがに言わねぇよ。」
何だかんだ、今日出かけることを諦めてくれた。
「ったく、何でそんなに嫌がるんだか。」
「普段も嫌がってるじゃないですか。」
「あ、あれか!そんな、昼間からとか…。明るいからカーテン閉めるか。いや、開けたままやるか。」
「そんなにヤリたいんですか。」
「ヤリたい。ヤラれたい。」
「感情がなくても。」
「いや、少しはあるだろ。」
「どうですかね。」
鼻で笑ってやれば、癇に障ったようで首に手を回され引き寄せられる。あと1cm程度で口がひっつくぐらいの距離。息が顔にかかる。お互いに目を合わせること3秒程度。
もし、俺からキスをしたらこの人はどんな表情をするのだろうか。
「で、ヤッてくれるのか。感情がなくても。」
「そんなの、後味悪いでしょ。」
「だろうな。期待させんなよ。」
一度も下側になったことはなく、きっと今まで攻める側だったこの人は。初めてをどんな声で鳴くのだろうか。どんな表情で俺を見上げるのだろうか。この人が普段、俺に見せない顔を知りたい。この人の弱いところを知りたい。
昨日、俺が帰った時の泣き顔。プレゼントを渡した時の顔。俺が寝ている間にとった行動。そして、今の状況。少しずつ、この人が俺の色に汚染されていく。泣き顔を見た瞬間、胸をぐっと掴まれた気がした。少しずつ、俺の好みのタイプへとなりかけている。心の奥に閉じ込めたはずの感情を引き出そうとしてくる。自分が傷つくのを恐れて、閉じ込めたはずなのに。どうすればいい。どうすれば、どの選択肢をとればいい。このままの関係を続けるのか、進展させるのか、また逃げるのか。
「ラーメン、何にする。」
「味噌ですかね。」
「お、同じこと思ってた。」
康介さんが起き上がるよりも先に行動し、キッチンに立つ。俺一人だったら、具なしでいい。けどそうすると、うるさい人がいる。卵、もやし、チャーシューはないからハムと冷凍のコーン、ネギ。それらを取り出しお湯を沸かしていると、後ろから抱きつかれて重たい。
「俺がするのに。」
「テレビ見ていてください。」
「たまにはそうしようかな。このやり取り、恋人っぽいな。」
耳元で楽しそうに笑って、今日は珍しくソファへと戻っていく。いつもなら強引でも、何か手伝うか主導権を奪われるかされるのに。
「皐月。」
「何ですか。」
「呼んでみただけ。」
前、同じことをされたな。この人ではない人に。その時は、俺もあの人の名前を呼んで。今頃、あの人は奥さんと元気に暮らしているだろうか。元気に、幸せに暮らしているといいな。可愛らしい人同士、お似合いの2人だった。
「…康介。」
「え。」
「何でもないです。」
「もう一回!もう一回呼んで!録音するから!」
「残念。一度きりのチャンスだったのに。」
ポカーンとした間抜け面。それからハッとして、もう一回と必死にねだってくる。ただの気まぐれ。何となく、反応を知りたかっただけ。特に意味はない。
後ろでしつこくねだってくるのを無視して、麺を茹でる。ほんと、どうすればいいんだろうな。この人はきっと、自分の幸せは自分で決めるだとか、周りの目を気にするなとか言いそう。でも、そう簡単にそんな思考になんて変えられない。考えたくないな。このままでいられることが一番幸せな気がするけど。俺の親は放任主義だから置いといて。きっと、いつまでも結婚しないのを気にして、いつか両親と揉めそうだよな。今の時点で、恋人を連れてこないことに不安に思っているかもしれない。
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