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完璧人間の崩壊(2)
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中々弁当を食べようとしない。コイツの事だから、本当にチョコレートだけで満腹なのかもしれない。けれど、家に帰ってからも食べない可能性もある。
「せめて、半分ぐらい食べろ。じゃないと保たないだろ。」
「…わかりましたよ。」
渋々、手付かずの弁当の蓋を開け、ゆっくりと食べ始める。散々腹がたっても、脆すぎて罪悪感が芽生える。それに天野を苛めたって、俺が後で女性社員に責められるわけだし。どれだけ可愛がられてるんだよ。1日に何回か、お菓子を貰っている所を目撃するし。…少し、嫉妬しなくもない。けど、俺だって何かしら与えている。お菓子だったり、飲み物だったり。
「本当に、飯食べに行くのか。」
「…そうですね。」
「ふーん。やっぱ俺も行く。」
「え。」
「良いだろ、盗み聞きしてる奴。」
さっきから、俺らの様子を観察しているのかドアの向こうに飯塚が居るのは気づいていた。窓に写ってるっての。
「良いですよー。断ったら、俺三浦さんに絞められそう。」
「よくわかってるじゃねぇか。」
「…本当にやられそう。」
そう言って、どさくさに天野の腕にしがみ付くものだから、天野の肩を寄せる。その拍子に、箸で挟んでいたウインナーが地面に落ちてしまったので、俺の方に入っていたウインナーを入れてやる。それを見ていた飯塚はニヤニヤと笑って、気持ち悪い。
「三浦さんって、天野君にだけ優しすぎません?」
「それは、お前と違って可愛いからな。」
いつもなら、ここで文句の1つや2つぐらい飛んでくるのに、今日は飛んでこない。俺等の話を聞いていないかのように、無言で弁当を食べている天野に目をやる。…飯食べた後、家に連れて帰るか。全力で嫌がられそうな気がするけど、酒でも飲まして寝かせれば良いし。一緒に住んでくれないかな…。住んでくれないだろうな…。膨らんだ頬を突くと、睨まれる。でも、それはそれで可愛い。
「皐月、これ食べるか。」
「…名前で呼ばないでください。寒気がする。」
「冷たいなー、皐月は。」
「…気持ち悪い。」
「三浦さん、滅茶苦茶嫌がられてるじゃないですか。僕は天野君の事、皐月君って呼んでもいいですか?」
「あ、どうぞ。」
あぁ、またイラッときた。何だよそれ。俺と飯塚との対応の差酷すぎだろ。むしゃくしゃして、手が出てしまいそうになる。それなのに、平然とした顔でお茶を飲み始める天野に余計ムカついて腕の中に閉じ込めた。そのせいで、キャップの空いた500mlの半分以上入ったペットボトルが天野の服にかかった。
気まずい雰囲気を察知したのか、飯塚はそーっと中に戻っていく。テラスに残されたのは、俺と天野と…冷たい視線を俺に向ける女性社員3名。やらかしたとは思う。けど、それ以上にまださっきの嫉妬が、怒りが残っている。
「天野君、大丈夫?」
「これぐらい平気ですよ。」
「私、替えの服買ってくるわね!」
「えっ、いや、そのうち乾くから大丈夫です。」
「今日、少し肌寒いから風邪引く前に中に入りましょう。三浦さんは頭冷やしてください。」
駆け寄ってきた女性社員たちは、濡れてしまった服をハンカチで拭いてやったり、ヒールをコツコツ鳴らしながらコンビニに走っていったり、俺から天野を離して中へと誘導したり。最後には説教まで。…立場的には俺が断然上なのに、やはり女ってのは恐ろしいし逆らえない。
言われた通りに頭を冷やそうにも、余計にイライラしてしまう。自分にも天野にも飯塚にも。もういっそ、無理矢理にでも自分の物にしてしまおうかなんていう考えが。家に連れて帰るにも、終業時間まで約5時間程。何処かの部屋に連れ込もうにも、一応俺にも常識があるわけで。他の社員に働いてもらっているのに、代表である俺が1人の社員を贔屓するわけにもいかない。それにきっとまた、女性社員たちに怒られるだろうな。
休憩時間の終わりギリギリまで、外で今からどうするかを考え中に戻る。天野はもう新しい服に着替えて、平然と仕事をやり始めていて、飯塚はさっきの社員達に説教を食らっていた。…一部始終を見られていたのか。ざまぁみろ。
「…さっきは悪かった。」
「いえ。俺も下っ端の分際で生意気でした。」
「…いや。」
…少し距離が縮まったと思えば、また広がってしまった気がする。飯塚のせいで。他に何か言おうとしたけど、言葉が思い浮かばなくて会話は途絶える。
あぁ、今日は全く仕事が進まない。別に、焦るような仕事は今のところないけれど。俺がこんな状態だと駄目だよな。もう、他のやつにこの会社を任せて、個人でやっていこうか。
いつもよりも確実に仕事が進まないまま、終業時間を迎えた。隣で帰る支度をしている天野の腕を掴む。
「飯塚、今日コイツ行かせねぇから。」
「…もう、わかってますよ。どうせ、そうなるだろうと思ってました!」
「ん、行くぞ。」
そう言って、腕を引くといつもみたいに文句は言わず無言で付いて来る。…正直、まだムカついてる。考えれば考えるほど苛ついて、飯塚だけでなく女性社員や天野の元恋人に嫉妬した。
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