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つい振り返ると、トラは今にも通話中の携帯を寄越してきそうだったので、咄嗟に目を逸らして立ち上がった。
「ちょーっと図書室行ってこようかなぁ!」
「え、ツル、電話、」
「勉強に集中したいから移動するわ!じゃ!」
「あっ、ちょっとー!千鶴さーん!」
制止する声を遮るようにバサバサと教科書類をひっくり返して、筆記用具だけ手に掴む。勉強するにしては身軽すぎるが気にしない。
ボスだか副ボスだか知らんがそんな訳の分からん地位の人とお話しする暇は俺にはないのだ。
平穏無事な生活を送ることが俺のポリシーだ。現時点で平穏とは言い難い状況だがそこは目をつむる。
これ以上厄介な人物とお知り合いにはなりたくない。
トラに捕まる前に脱兎のごとく教室を飛び出し、廊下で喧嘩に勤しんでいる不良達の間をくぐり抜けながら全力疾走した。
実際特に用はないが、とりあえず宣言通り図書室に向かう。
不良達が本を読むとは考えられないので、もしかしたら図書室は安寧の地かもしれない。
何かあったときのための避難場所にできたらいいな。何もないのが一番だけど。
避難場所と避難ルートを確保しておこう。
今後の安全のためにと、構内図を思い浮かべて辺りを確認しながら、安寧の地を目指した。
———そこが、この校舎で最も危険な場所だとも知らずに。
* * *
「あーあ、行っちゃった。ほんと突飛だなぁ」
『……、』
「あ?なに?」
『…………千鶴?』
「おー。千鶴ってーの、あいつ。可愛いー名前っしょ」
『……』
「ちょっとだいぶ変人だけどなー。それがどうかしたか?」
『……いや』
「つーかこの前の抗争ん時さー、マジで……って、は?おーい?…………ブチ切りやがった、意味わからん」
———このときから、いや、きっと、Z組に来たときから。
俺の人生は、色々な縁が絡まり合って目まぐるしく回ることになるのだと、
俺はまだ知らなかった。
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