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また一歩踏み出し、男の横に立つ。
ムッとした表情のまま見下ろすと、男は意外そうに目を瞬いた。
その顔の前に、ブレザーを突き出す。
「……見逃すもなにも、俺別に悪いことしてないですけど」
不満も露わにそう言うと、男は目を大きくして呆気にとられたように固まった。
先程の威圧的な雰囲気から一変、あどけなささえ感じるその表情に満足する。
言ってやったという達成感にニンマリ笑ってふんぞり返ると、男はブレザーを受け取って、堪えられないというふうに吹き出した。
さっき見た悪どい笑みとは違い、眉尻を下げた自然な笑みに、ちょっと驚く。
「……つーか、先に逃げようとしたのはお前じゃん」
「う……あれは、まぁ、そうですけど」
笑いながら図星を突かれて口ごもる。
最初に男の囲いから抜け出したものの転がって壁にぶつかって目を回して自ら男に飛び込むという、今思うと我ながら間抜けすぎる行動だった。
そもそも人の顔見て逃げ出すとか、初対面なのに失礼だったか。
今更ながら自分の一連の行動が恥ずかしくなって、「すみません」と素直に頭を下げた。
するとまた男は瞠目して、ククッとおかしそうに笑う。
何が面白いのか、こっちは真面目に謝っているというのに。
ムスッとしていると、男が笑いながら体をこちらに向け、頬杖をついて俺を見上げた。
「お前、可愛いやつだな」
「……!?」
綺麗な顔に笑みを浮かべながら言われて、不覚にも赤面した。
可愛いなんて言われても全っ然嬉しくないが、心臓が勝手にバクバクして体温が上がる。
これ、女の子だったら確実に落ちてる。
ここが共学だったら絶対ほとんどの女子がこいつに惚れていただろう。いや、男子校のここでも、きっと魅了されてる人間はいるはずだ。
それくらい、破壊力のある一言だった。
混乱する頭で必死に言い返さなくてはと口をパクパクさせた後、結局、「っ、バーカ!」と子供っぽい悪口しか返せず、また笑われた。くそ。
腹立たしさと恥ずかしさで居た堪れなくなる。
せっかく避難場所として良い所を見つけたと思ったのに、この人がいたら逆に気疲れする。
サボるのは諦めて、教室に戻るか。トラも、副ボスとやらとの電話ももう終わっているだろうし。
そう思って身を翻しかけたが、トン、と音がして、机を叩いた男の長い指に目がいく。
隣の席の辺りを示すそれは、ここに座れという無言の指示だと察知する。
正直、座りたくない。
バチリと合った視線は、従わざるを得ない強さを持っていた。
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