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なんとなく食欲を失い、進まない箸で白飯をつつく。
トラは残りを一気に食べ終わり、「ふー満腹満腹」とオヤジみたいに腹を叩いてご満悦だ。
そのまま寝転がろうとしたのですかさず「ごちそうさまは?」と指摘すると、慌てて「ごちそーさまっした!」と手を合わせた。
「うむ。下がってよし」
「あっ、食器洗いは俺やるよ!ご飯つくってくれるお礼!」
「まじか、ありがと。食べ終わったら持ってくわ」
母の日に張り切って手伝いを申し出た子供のように上機嫌で食器を台所へと持っていくトラを見送り、残りのご飯を掻き込んだ。
……なんだかなぁ。
あらかた食べ終わって一息つき、茶碗に残ったご飯粒を丁寧につまんでいく。
茶碗は綺麗になったが、モヤモヤは消えない。
トラは、なぜ俺に懐いてくれるんだろう。
ただ人懐こいヤツだと思っていたが、どうもそういうわけではないような気がしている。
佐野先輩や桐生先輩と仲が良いのは明らかだが、あれは人懐こいからというかただ命知らずのお馬鹿さんだからあんな無礼な態度でいられるわけで。
中等部からの仲と言っていたので、その頃は3人一緒にいたのだろうか。なかなか3人とも喧嘩腰だが、お互いが信頼し合っているのが見て取れる。
そんなこと言ったら全否定されそうだけど。
だが、中等部からの仲というのは、クラスメイトにも言えるだろう。
Z組は腐っても燈桜学園だ。ほとんどが中等部からの持ち上がりだろう。
一学年違うと言っても、トラのあの明るさならクラスメイトとももっとこう、上手く言えないが、佐野先輩たちと同じような仲になっていてもおかしくないと思うのだが。
どこか一線を引いているように見えるのだ。
最初は、周りの方がトラを特別な存在として一定の距離を保っているのかと思ったが、なんとなく、トラの方が彼らと距離を取っているような気がしている。
……まぁ、こっちに来てたった数日の俺が感じたことが真実だなんて思っちゃいないけど。
俺は結構、人の機微には敏感なのだ。
だから、トラが初対面から好意的に接してくれたことが不思議でならない。
それとも、ああ見えて実は俺に対しても一線引いているのか……?
いやそうだとしても、そもそも他人と距離を取るのは別に普通のことだ。むしろ誰にでも距離を取らずグイグイいくような人の方が珍しい。
いやでも、トラは俺に対して結構グイグイだよな……俺にそんなたいそうな魅力あるはずがないから違和感を感じるわけで、トラの他の人に対する態度と比べるとやっぱり……
「ツール!」
「おわ!」
答えのない疑問の中にズブズブと沈んでいったとき、背後からタックルされて現実に意識が戻った。
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