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君を感じて
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スイカの食いつきっぷりから空腹なのだろうと思い、彼を部屋へ案内してから軽く食べるものを用意してやる。
余っていた茄子の揚げ浸しに、胡瓜と和布の酢の物、そして川で冷やしていたトマト。
あいにく魚や肉は切らしていたために野菜ばかりになってしまった。
それでもどうぞと出してやるとなかなかの勢いで口へと消えていくからよかった。
「どうして...ここに...」
彼の口からぽつりとこぼれた声。
「どうしたの。」
優しく問うてやると、少しこちらを見て
「ここに...住んでるの...」
なぜ、ここに住んでいるか...か。
きっかけはそうだな、
「とっても静かで、空気も綺麗なんだ。」
それは今もそう、むしろ昔よりもよく感じているだろう。
「川も綺麗だしね。そのトマト、近くの川で冷やしたんだよ。」
ふ、と視線がトマトに止まり、じぃっと見て不思議そうにしている。
きっとそんなところはなかなかないだろうから。
「大丈夫だよ。とても綺麗な川だから。」
「...うん...うまい..」
心配しているのかと思っていたらふわりと笑みをこぼすのだからわかってくれたんだろう。
ずっと無表情だったから子供らしい無垢な笑顔に少し温かな気持ちになった。
彼はしばらく見つめた後にまた切ったトマトの1切れを口へと運ぶ。
「それはよかった。さっきのスイカもね、川で冷やしたんだよ。」
「...いいところ...」
「うん。とてもいいところなんだ。」
だから、君と一緒にここへ来ようとした。
一緒にこの自然の中、過ごしたいなぁって。
もう叶っているのだろうけれど。
そうして似通った顔に君を思い出しながら見ていると、普段食べているものよりも幾分美味かったのかあっという間にたいらげてしまった。
「あぁ、あと風も気持ちいいんだよ。」
くせのない短髪がさらさらと風になびく。
「ここに...いたい...」
少し影を落としながらも静かに訴えるような目でこちらを向く。
駄目じゃないか。そんなにもあの男に似ておいて儚げに見つめられるなんて、
「ん。寝よっか。」
...反則じゃないか。
彼も風呂を出て、寝床につく。
風邪をひかないように軽くタオルケットをかけてやると疲れていたのかすぐに整った寝息が聞こえてきた。
ここは田舎であるこの町でも特に静かな村、そんな丘の上だ。
他の場所から紛れ込むなんて滅多になく、その上この丘の上にたどり着くことは無いに等しい。
下の通りから上がってくるためには迷いそうな道を正確に上がってこなければいけない。
一歩間違えれば遭難、しかしこの少年はたどり着いたのだ。
愛しき者と似た姿にほんの少し運命じみたものを感じてしまう。
折角だから、しばらく匿わせてもらおう。
久しい人のぬくもりを傍に感じながら静かに夢へと落ちていった。
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