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「はぁっ、はぁぁぁ………すぅぅ………はぁーー、」
…また、追いつけなかった。
前より遠くなった気だってした。
全然、変わらない。俺と彼方のキョリ。
「…梁瀬、楽しかった。やっぱり俺、梁瀬と走るのが好き。
本当は………、いや、また、そのうち。」
あんだけ早く走って、それでも呼吸を乱さない。
表情も変わらない。
走ることに関して、絶対に敵わない。
……つくづく陸上の神様に愛されてる。
彼方はそれだけの資格も十分あって。
追いかけるだけ、無駄なのかもしれない。
それでも俺は…
「っ…!!」
勝ちたかった……なんて言うのは、俺のエゴなのかな…
「梁瀬っ!!」
「廣川」
「久夜…谷地島……、ごめん、勝てなかった。やっぱ俺じゃ……あいつには…勝てない…みたい……」
駆け寄ってきた久夜と谷地島の顔を見た瞬間、負けた悔しさと、勝てなかった申し訳なさが一気に襲ってきて、気づいたら涙が溢れてきた。
……知っていた事実をまた、突きつけられた気がした。
悔しくて握りしめていた手を、久夜にほどかれる。
「梁瀬、泣かんで。今回はしょうがない。
皆本気で走った。それでも勝てんかったんは、誰が悪いとかやない。ただ青が早かった。それだけやない?
梁瀬のせいやない。もちろん、谷地島のせいでもないで。」
「そうだよ、廣川。俺だって1位でバトン渡せなかったし、でも皆頑張ったじゃん。それで十分じゃない??」
久夜も谷地島も笑って俺を慰めてくれる。
2人だってきっと悔しいはずなのに。
……本当に申し訳ないのは、俺が負けても仕方ないと心のどこかで思っていたこと。
彼方の後ろ姿を、やっぱり綺麗だと、凄いと思ってしまったこと。
手を抜いたつもりはない。
俺の全力を出しきった。
だけど、どこかで無理だと諦めた自分がいたかもしれない。
「廣川、お疲れ。」
「やっぱ早かったなー」
「あ、もう退場だって。2年生くるよ。」
「ってか次なに?棒倒し??」
「先に3年のリレーだろ。」
「あー、あの距離が増えてくやつ。」
「スウェーデンリレーな。」
後からきた織部達は、悔しそうだったけど、楽しそうに笑って、話題は次に進んでく。
それくらい軽く、考えられたらよかったのに。
「廣川、戻ろう。」
「梁瀬、まだ終わりじゃないで。」
久夜にほどかれた手を、また握りしめる。
グラウンドの中心で大きく息を吸う。
『……また、そのうち』
彼方の中では次があるのだろうか。
変わらない結果しかなくても。
楽しかった。悔しいだけじゃなくて。すげー楽しかった。
今はそれでもいいんだろうか。
また次も勝てなくても、結果だけが全てではないと、そう思ってもいいのかな。
「梁瀬、またあいつらと走りたいな。
まっ、その前に後で俺が氷野に勝って、借り返すから心配しなや。」
「……そうだね。応援してる。」
久夜の声に自然と笑みがこぼれる。
最後に待つ、色別リレー。彼方と久夜、どっちが早いのか分かる。
決着がつく。
俺が立つことの出来ない場所で。
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