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あまりにも短い時間だった。
どっちかを応援することは出来なくて、俺はただ祈るように2人を見ていた。
吸った息を吐くことも忘れて、一生懸命に走る久夜を、彼方を、吸い込まれるように見ていた。
ピストルの音とほぼ同時にスタートした彼方に、コンマ何秒か遅れてスタートする久夜。
セパレートだから、その差はとても分かりづらい。
ただ、同じ1年生でも彼方と久夜が先頭を走ってることは一目瞭然で、長いようで短いグラウンド半周を一瞬のように駆けていった。
2走目に近づくにつれ、若干彼方がリードしていることが分かって、俺はつい叫んだ。
「久夜っ!!!頑張れっっ!!!!!!!」
無意識のうちに口から出ていた。
どっちにも声援は送らないって決めてたのに…。
その声は久夜にも届いたらしかった。
最後の最後で久夜は彼方と同時に2走目にバトンを渡していた。
2走目の1年生は当たり前だけど久我君が断トツで速くて、他の色は皆似たような速さで。
2年生も風のようにグラウンドを駆けていった。
色別リレーの本選は、3年生3人全員がグラウンド一周らしくて、1走目の三年生で何回か順位が入れ替わった。
アンカー前の八草先輩の時、赤は3位だった。
青が1位で、湯浅先輩が待ってる水色、そのあとに赤。
だけど、八尋先輩がいるオレンジが赤を追って4位だった。
京介先輩は橘木先輩より遅いって言ってたよな……
両手で祈るようにぎゅっと固く握る。
「八草先輩!!京介先輩!!頑張れ!」
八草先輩が水色の人を抜いて、青、赤、水色、オレンジの順でバトンパスをした。
橘木先輩を追う京介先輩、それを湯浅先輩と八尋先輩が追っていく。
差が縮まらない。それはみんな速いってことで。
ボルテージは最高潮に達して、歓声の声が増える。
「京介先輩っ、お願い…!!!」
小さな祈りを込めて、走ってる先輩達を見つめる。
半周を越えたあたりで、八尋先輩が湯浅先輩に並んで、京介先輩も橘木先輩のすぐ後ろまできていた。
…お願い、先輩。
多分、その場にいた全校生徒全員が、一瞬息を止めた。
------ パンっ パンっ !!
盛大な歓声と共に、京介先輩と橘木先輩がその場に倒れた。
その後ろで湯浅先輩と八尋先輩も倒れる。
グラウンド一周をほぼ全速力で走りきった先輩達は荒く呼吸をしながら、タイムを集計してる放送席の方を見つめていた。
席にいた俺たちには、京介先輩も橘木先輩も同着に見えた。
部活対抗リレーの発表並みに静まり返ったグラウンドは、圧倒されるような威圧感がすごくて、息を大きく吸った。
『集計結果がでました。ただいまの色別リレーの結果は、………1位、青組』
その言葉の瞬間、青の席から大きな歓声がした。
『そして、なんと、同着1位、赤組』
一瞬の静寂のあと、盛大な歓声と拍手がグラウンド中に溢れた。
「同着…1位、……」
「本当、凄いなぁ……あいつらは。」
隣の谷地島が呟いた“あいつら”には多分、久夜と彼方と久我君。全員が入ってるんだと思う。
俺もそう思う、と返して、体の中の空気全部出しきるように、息を吐いた。
小さく震える手を押さえて、グラウンドの中心にいる人たちを見つめる。
本当に凄い。圧巻の走り。
足の速い人達は、本当にレベルが違う。
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