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「僕は覚えているよ」
そう微笑んで、小首をかしげる仕草は、とてもなれた様子だった。
しかし、佐々木は龍の前ではもはや紳士を取り繕う事さえ、至難の技。
龍が直接に視線を合わせる。
平静を装うことにどうにか成功し、言葉を繋げた。
「龍……あの時派手に転けたみたいだったけど、あれから大丈夫だったか?」
(まぁ、こんな屋敷に住んでるんだ、救急箱とは言わず、医務室くらいありそうだが)
「うーん、あれねぇ、傷痕は残っちゃったんだよね」
愛しくてたまらず呼び捨てにしていることに気付かず、ほら、とスラックスを上にまくる龍を見る。
3年前に抉れた損傷した部分。
皮膚を引っ張り合って盛り上がっている。
それを佐々木は膝立のまま眺めていた。
色白で華奢な体に大きく膨れ上がり、お世辞にも目立たないとは言えない赤黒く残る傷痕。
悔しいという気持ちさえ沸いた。
「僕……綺麗じゃないからね。そんな可哀想みたいな目をしなくても、男だし傷くらい当たり前よ」
「俺はあの時から龍を探して、ここに来たんだ。手当てが粗かったのも、正しい処置が出来ていたかも分からん。結果、こうして傷痕がある。責任はきちんと俺がとる。いや、俺だけでいい。会社は当然潰す。そして、龍も俺がさらう」
「……ふふっ、目論見全部いっちゃったよ?いいの?お父さんに言っちゃうよ?」
「それはお止めください、龍様」
片足を立て、下からそっと龍の柔らかな手を取り、執事としても、佐々木自身としても意識してもらえるよう、スイッチを入れる。
仕立てたばかりのスーツを身に纏っているため、龍の眼を惹いていることは確かなはずだった。
「様になってるね。3年前は口悪い優しい兄ちゃんかと思ってたけど、今は……」
「今は……何でしょう?」
あくまで佐々木は執事だ。
どもる龍を下から見据える。
「とても……カッコイイ執事兼兄ちゃんだよ」
「私は、兄などという関係は望んでおりません。あわよくば、龍様をさらった後、恋人として家の敷居を跨がせます」
龍は、静かに、笑った。
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