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78座敷名
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「卯月、楓、化粧は終わったかえ?」
自分の顔に見とれていると、襖を開けて葉月さんが入ってきた。その後にはイネちゃんとシノちゃんもいる。
「おや!」
葉月さんの方を向くと、葉月さんは目尻を下げて、ニッコリと笑った。
「思ってた通りだわ。楓の女顔はやっぱり性別を間違えただけな様じゃ」
せ、性別間違えた!?間違えるかぁあ!!
心の中で葉月さんにツッコミながらも、再び鏡に目を向ける。
何度見ても自分の気がしない。
「俺は男です!!……でも、まさか自分の顔がこんなになるなんて思ってなかったですけど……」
「おい葉月、楓、そろそろ────っ」
トタトタと小走りの足音が聞こえたかと思うと、伊助さんが襖の淵から顔を出した。
きっと、そろそろ時間だから呼びに来てくれたのだろう。
「伊助、今済はんは?」
「え?あぁ、座敷にいるよ……」
伊助さんは葉月さんの質問に心無しという雰囲気で返している。どうしたんだろう?
「そんなこと分かっておるわ。奥方のことを聞いてる」
「まだ来てねぇよ……。あの、一ついいか?」
「何さえ?」
「それ、楓……だよな……?」
伊助さんは目を見開いたまま、俺の方を指さした。
「何言ってんの伊助。見てわからないわけ?」
ニヤニヤと笑う卯月さんは、俺の両肩を後ろから抱いて、伊助さんをからかった。
伊助さんが固まってたのって、この格好した俺が分からなかったから!?
た、確かに自分でも自分じゃないみたいだけどさ……。
「ほぉ〜……変わるもんだな……」
伊助さんはスタスタと部屋に入ってくると、俺の前に座り、まじまじと顔を見た。
う……そんなに見つめないでほしい……。
「これなら座敷出ても違和感ねぇな。」
「そうだろう?俺の腕に感謝してよね」
「いやいや、楓は元がいいんだって。お前も手間かかってないだろ」
「そこは俺を立ててよ。まぁ、確かに、華やかな顔立ちだからその通りだけどさ」
元がいいとか、華やかだとか、……多分褒められてるんだろうけど……なんか、褒められ慣れてないから……
「……恥ずかしいんだけど……」
頬に集まる熱を感じて、それを見られたくなくて、顔を俯かせる。
今までこんなに人に思ってもらえたことはあっただろうか。────いや、数えなくても、無いか……。
「そうじゃ伊助。楓の座敷名はそのままかえ?」
葉月さんの言葉で、卯月さんと伊助さんの話が止まり、別の話題に移った。
「座敷名?」
「あぁ、俺らが座敷に出る時に使う名だよ。『卯月』『葉月』『如月』。一応全部月の名から取ってるんだ。まぁ、源氏名みたいなもんだよ」
源氏名……ってことは、
「本名じゃないんだ…」
確かに、よくよく考えれば、花魁の3人の本名の文字が偶然一致する訳ないよね。現代のホステスもそうだよね。
「楓、俺の本名知りたい?」
「えっ?いや、それは申し訳ないというか…」
ズイッと寄ってきた卯月さんにちょっと圧されて、俺は口籠もった。
「楓は俺に興味持ってくれないの?」
卯月さんは大尽を惑わすかのような雰囲気を醸し出して、どんどんと俺の方に被さってくる。
し、知りたくないっていえば嘘になるんだけど、でも……
「わっちも卯月の名知りたいわぁ」
「え、葉月さんたちは知らないんですか?」
意外や意外。珠蘭屋の人はみんな知ってるもんだと……。
葉月さんに視線を向けると、クスクスと微笑みを湛えていた。
「そうさぇ。伊助と如月は卯月の昔馴染みだけど、わっちは楼主に引き抜かれたから」
引き抜かれた……?す、スカウトみたいなものかな??
ていうか、やっぱり、伊助さんと如月さんと卯月さんは昔馴染みだったんだ。
他の人よりも気を許しあっている感じがしていたから、何となく納得した。
「で、名前聞きたいか?」
「……えっと……」
「わっちには教えてくれや」
「おいお前ら!!今は、楓の座敷名の話だろ!?早くしねぇと今済の旦那の奥さん来ちまう」
なかなか進まないし、外れた話題の中心にしびれを切らしたのか、伊助さんは『おいおい』と俺らに声をかけた。
そ、そうだよね…。卯月さんの名前より、自分のこと片さなきゃ。
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