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31初めての見世
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なれない仕事ばかりしていたせいか、時間はあっという間に過ぎた。
気づけばもう見世を開ける時間だった。
「楓ー」
各お座敷の準備を終え、廊下を歩いていると、若虎が走ってきた。
「そろそろ大尽来るから案内頼む!!」
「う、うん!!」
は、初めての大きな仕事!!
しっかり案内できるだろうか……。
失敗しないだろうか……。
失礼なことしないだろうか……。
直前になって、色々な不安が頭を巡る。
「こーら楓!!」
「うみゅっ」
若虎は俺のほっぺたを両手で包んだ。
「にゃ……にゃに……」
ほっぺたが抑えられると、うまく喋れない。
「そんな不安でいっぱいですって顔すんな!!大尽に失礼だ。いつも通りのお前で大丈夫だから!!」
若虎は俺の目をしっかり見て、『大丈夫』と、念を押すように言葉をかけてくれる。
「わ、わかとりゃ……」
心なしか、ジーンと胸が熱くなり、それだけで確かに俺は励まされた。
「ほら、わかったらピシッと行ってこい!!」
「いたっ……」
バシンっと背中を叩かれ、ちょっと前のめりになった。
けど、勇気は出た。不安も減った。
俺は若虎にちょちょっと手を振って、玄関へ急いだ。
***********************
「お待ちしておりました」
玄関について、3分後ぐらいの事、1人の大尽が見えた。
なるべく自然に────自然に────
俺はその大尽の前を歩き、日中言われた座敷へと通す。
「ここで少々お待ちください」
正座をして、襖をスッと閉める。
「っ……………はぁっ……」
き、緊張した〜!!
襖を閉めてから、緊張の糸が解れ、心臓がバクバク言っている。
けれど、その緊張を完全に解せないまま、次の大尽の案内を頼まれた。
『君は新顔だね。新しい裏方かい?』
「っ、はいっ!!」
案内する途中の廊下で、大尽に話しかけられて、心臓が飛び上がった。
思わず声も裏返ってしまった。
『ははは。緊張しているのか?』
「すみません……初めての仕事なので」
なるべく普通に、気持を落ち着かせながら言葉を返す。
幸い、とても優しい大尽で、厳しい言葉はかけられなかった。
「ここで少々お待ちください」
『ありがとう。……あ、ちょっと』
襖を閉める前、通した大尽に引き止められた。
「はい?」
『若虎君に伝えてもらえるかな。今日の料理は味付けを薄くして欲しいんだ。』
そういう注文もできるのか……。
「体調が優れないのですか?」
最初、この大尽の頬がコケたように見えたのは、間違いでは無かったようだ。
『いやね、最近胃が弱ってきていてね、味の濃いものはどうも……』
「そうなんですか……。では、そう伝えます。」
流石にちょっと心配だ。
「……あの、」
『ん?』
下がる前に、ちょっと口が開いてしまった。
「ぁの…お身体大事になさってくださいね」
『……!……ははっ…。君は優しい子だね。ありがとう』
裏方如きが、大尽の心配をするのは烏滸がましいとは思ったが、どうしても口が出たのだ。
「いえ。それでは失礼します。」
俺はやっと座敷からさがった。
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