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35卯月のお座敷
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大尽はまるで、昨日自分がしたことを覚えていないような感じに話しかけてくるから、尚更苛立ちそうだ。
『こんな愛らしいのが裏方とは、朱蘭屋は……』
「っ……、!?」
俺の前にしゃがんだオトコは、右手でフイと俺の顎を掬った。
思わず、息が詰まる。
この人には触られたくない。
怖くて、怖くて、腕が隠れて震える。
着物の裾を握って、その震えを隠すのが精一杯。
今すぐその手から逃げたいけど、卯月さんの大尽だ。下手な真似は出来ない。
だけど────だけど────嫌だっ───!!
「狭間の旦那。わっちを除け者にしないでおくんなんし」
冷たい声音が、オトコの後ろからかかる。
その声にハッとした男は、それでもまだ俺から手を離さずに、顔だけを向けた。
『い、いや、ちがうよ卯月!!なっ?』
焦るオトコの顔を冷ややかに見ながらも、卯月さんはゆっくり立ち上がり、こちらへ来ると──
「っ、」
「旦那、この手はわっちのものでは?」
卯月さんは、さっと、俺を自然に後ろに隠し、離れたオトコの手を掬いとり、自分の頬に当てて、うっとりとした表情でオトコを見た。
『っ、わ、悪かった卯月!!私はお前のもんだよ』
「ええ。そうでありんしょ?」
さっきの冷たい表情とは打って変わった、花のような笑顔に、オトコは焦りながらも嬉しそうだ。
「旦那、わっち、今日は旦那と飲むのを楽しみにしておりんした」
そう言って、さっさと奥へとオトコを急がせた卯月さんは、まだ動けないでいた俺の耳に口を寄せた。
「悪かった楓。震えが止まる頃にこの座敷からは離れていいから。」
ぱっと離れた顔は、とても不安そうに俺を見つめていた。
「……はい……」
朱蘭屋の決まりとしては本来、花魁の所に通した時には最初の短時間その座敷の外についていなくてはならない。
料理や酒の追加を直ぐに聞けるようにだ。
だけど、俺を気遣った卯月さんは、離れてくれていいと…そう言ってくれたのだ。
俯いて、床を見つめていると、卯月さんはそっと俺の頬を触った。
さっき、オトコに触られたところだ。
卯月さんは────嫌じゃない────。
「ごめんね楓」
またポツリと呟いてから、何事も無かったかのようにスッと襖を閉めてくれた。
襖の向こう側で2人の賑やかな声が聞こえ出す。
内容は全く入ってこない。
俺はただ、ただ、震える肩を抱くように、その場に座っていた。
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