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優しさと嘘
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新しい家族ができた。
小さくてふわふわとしたその子を灰吏さんが抱えて、帰路につく。
最初は威嚇していたその猫も、今は大人しく抱えられていた。
「あぁ、手が砂っぽい……帰ってからお風呂に入れてあげなければいけませんね」
困ったような口調だけどその顔は優しい。
本当にこの人が、大切なものを一つに絞れたんだろうか。
今しがた家族になったばかりのこの子猫を、こんなにも慈しむように愛するこの人が、そんな冷酷なことをできるようには思えなかった。
失ったものを悔やんで悔やんで、それでもなお逃げ出すことの出来ない自分への救済なんじゃないかって。
優しいこの人が、自分自身についた悲しい嘘なんじゃないかって。
今まで広く、大きく見えたその背中が途端に寂しそうに見えた。
「春陽?」
そんなことを考えていたら脚が止まっていたらしい。
不思議そうに振り向いた灰吏さんと、こっちを見つめる子猫。
早く行こうと言わんばかりにみぅみぅと鳴く子猫に急かされるように、彼らとの間を詰める。
▽
「白かったんだね、お前は」
家に帰って、子猫を洗ってやった。
擦り寄ってきた時には全身が茶色くて、てっきり毛の色が茶色いのかと思ってたけど、実際は綺麗に真っ白。
猫を育てられるようなものなんて当たり前だけど家にはなくて、仕方ないからほんの少し牛乳を与える。
それでもお腹は満たされたみたいで、今は初めての家の中を物珍しそうに見回している。
危険な所、と言ってもこの子が行けるような所にはそんなにないのだけど、もしもの時のために僕も付いて歩く。
ふわふわしたものが転がるように歩いていくのはとても可愛くて、父さんに散々に言われたことなんてもう忘れていた。
「大丈夫ですよ、そんなにくっついて歩かなくても。ドアを閉めておけばこの部屋から外へは出られませんし。私達も食事にしましょうか」
両手にお皿を持った灰吏さんが、笑いながらこちらを見つめてくる。
返事をして食卓に付けば、目の前に並ぶ灰吏さんのご飯。
天界の食事のように、灰吏さんがここに来る前の僕と父さんの食事のように、すごく豪勢なものであったり、すごく煌びやかではない。
でも、バランスよく作られたそれには、何にも変え難い温かみがある。
昨日までの父さんのも美味しかったけど、やっぱり灰吏さんのご飯が1番美味しい。
「やっぱり家が1番です。でも……また皆でご飯を食べれたらいいなぁ」
食卓に華を添えてくれるウリエラも、ずっと一緒だった冬夜も、そしてもちろん灰吏さんも、誰かが居ないのは寂しいから。
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