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敬愛
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”早く行ってください。なんのために私がここにいると思ってるんです?”
チラッとこちらを見たミカの、メガネの奥の瞳がそう告げていた。ような気がする。
「じゃあ、な」
「早くどこへでもお行きなさい」
「おい、ミカ、結局邪魔するんだな。離せ、離せよ!アイツらは行かせない!」
最後に見た神崎の顔は悔しそうに歪み、ミカの顔も、僅かに崩れる。でもそれは神崎とは正反対の方向に。
笑えない、笑わないと思っていたその鉄仮面は少し歪に、清々しく笑った。
▽
古びた扉が閉ざされてから、しばらく。
「何故あの方たちにそこまで固執するのです?」
漸く諦めたのか静かに、不貞腐れたように座り込んだ神様に問う。
「敵に教えることなんて無い」
声にもまだ拗ねたような響きが。
ふぅ……まったく、世話の焼ける主ですね。子供らしいというかなんというか。
これで地球創世から生きていると言うから恐ろしい。
「私は敵ではありません。貴方の腹心ですよ。それでも教えてくれないと仰るのなら……貴方の言った通り、どこへなりとも行きましょうか」
コツリ
ドアの方へ足を向ける。
もちろん本気で出ていくつもりは無い。これでももう何年も神様の傍に仕える身。ある程度の扱いは心得ている。
シワなく伸ばした軍服の裾を、後ろからひかれる。
そう来ると思った。
「いかがなさいました?」
「俺さ、人間の絶望した表情が大好きなの。ゾクゾクして、長い長い時を生きることを、一瞬でも忘れられるような気がして。あと……他人の物を取るのも好きかなぁ」
ポツポツと呟き始めた。
永い時を生きることの苦しみは、私にも分からない。でも。
「私では不足ですか?」
零れた音にハタと気付いて口元を抑える。
聞かれてなければいいが、なんて期待は、神様のぽかんとした表情にことごとく打ち砕かれたが。
「あっはは、何を言い出すかと思えば」
さっきまで拗ねていたかと思えば、今度は腹を抱えて笑い出す。忙しくも元気な神様は、今は素顔な気がした。
「ダメだよ、ミカは。お前の絶望なんて考えられないし。人の物でもないしね」
「なら他の誰かのところに……」
「それは俺が許さないよ。ミカは俺のもの。ほかの誰にも渡さない」
口ではそんなことを言いながら、でも目は置いていかれないように縋る子供のようで。
どこにも行くつもりは無いのですけれど。
埋められない歳の差を、貴方の絶望を理解することを、私には出来ない。
そのための経験も、時間も、到底及ばないのだから。
「はい。私はいつも、貴方の傍におります。なにが、あろうと」
「それでいい」
私はかつて、この方を雲のように掴みどころのない人だと形容した。
事実、表面上はそう偽っているのかもしれない。
でも、違う。
この方ほど、不器用で分かりやすい人は他にいない
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