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弟
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「灰吏さん、ウリエラさんが目を覚ましましたよ!」
バンと音をたててドアを開け、興奮しきったかのように春陽が部屋に入ってきた。
「目、覚ましたんですね。私も行きます。」
本音をいうと、ほんの少し憂鬱だった。あの日堕天の道を選んだ自分をきっと弟は、ウリエラは恨んでいる。
今更逃げる気は無い。これが昔の同僚だったらなにも臆することなく出ていけた。でも、こんな俺を自慢の兄として慕ってくれていた弟には、どうしていいか分からなかった。
俺と春陽の部屋は、そんなに離れていない。
心の準備ができないまま、春陽はどんどん部屋に入っていってしまった。
「兄…さん……?」
部屋の中から聞こえてきた声に、一瞬固まってしまう。
「ルシフ兄さん…?なんで…なんでこんなところに?僕は…ずっと待ってた。ずっとずっと兄さんが帰って来るのを。兄さんに恥ずかしく無いように、頑張ってたのに。
なんでこんなヴァンパイアのところになんているんだよ。」
本当は俺だって弟を置いていきたくはなかった。でも、こんな危険なことにたったひとりの家族を巻き込むわけにはいかなかった。
そんな事は言い訳にしか過ぎなくて、俺は口を噤むしかできなかった。
「何か言えよ!お願いだから…なにか言ってよ…ぐす」
「ごめんな、ウリエラ」
かろうじて出た言葉はたったそれだけ。それだけしか言えなかった。
沈黙に耐えきれず、俺は部屋を出た。
ウリエラの傍にはきっと春陽がついていてくれる。そう思い、再び春陽の部屋へ戻っていった。
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