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料理
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トントントントン
リズミカルに奏でられる包丁の音が心を落ち着かせる。
今はまだ昼食前。私が包丁を握っているのはその準備のためで。
それにしても今日は朝から密度の高い時間だった。
春陽が倒れたこと。そして、神崎 創汰が以前私が仕えていた神だったこと。
とにかく、春陽は自分のことに無頓着過ぎる。
”ごめんなさい。迷惑を掛けてしまって…。”
全然迷惑なんかじゃない。
迷惑なんて思うはずがない。
ただ、心配なだけ。
今回のことは、春陽原因じゃないことは分かっている。冬夜の不摂生というか、まずそんな治療法を提示した薬利先生にある。
でも貴方はとても献身的で、自分のことは二の次になってしまうから。そのいつか身を滅ぼしかねない優しさが、いつも私をひやひやさせる。
1センチ角に切り終わった野菜を油をひいた鍋に移し、炒める。
水を入れてコンソメを入れて、後は柔らかくなるまで煮込むだけ。
淡々と作業をこなしていくと、徐々に頭の中がクリアになっていく。
もう一品なにか…。
と思ったが、材料がなくなっていた。今までの三人分で用意していた分では、流石に五人分は賄えなかったらしい。
仕方ない。昼食はスープとパンにしますか。後で買い物に行かないと…。
「…らさん。天原さんっ」
「えっ、あっ、はい!」
考え事をしていた私は、意識の外から入ってきたその声に反応しきれなかった。
「もうそろそろお昼ですか?」
「ええ。今更ながら神様のお口に合うか、不安ですが…」
「あはは、安心してください。ルシフェル…じゃなくて、天原さんのご飯、めちゃめちゃ美味しいですから。」
「…私のこと、覚えてらしたんですね。」
正直こんなところであの名前が出てくるとは思わなかった。
”ルシフェル”
天使だった頃の私の名。今は捨てた、過去の名前。
「それはもちろん。あの頃のあなたはとても綺麗でしたからね。俺、何回か申請したんですよ、天使長に。あなたを俺の傍につけてくれって。ことごとく断られましたけど。」
会話を断ち切るように、パンを温めていた電子レンジの音がした。
「俺、皆を呼んできますね。あっ、そうそう、俺が神様だってこと、薬利先生にはナイショですからね!」
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