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喧嘩
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僕の一言で、その場の空気が一転緩む。
兄さんは機械的な動作で時計を確認し、こちらを一切見ることなく部屋を出ていく。
『俺、お邪魔ですね。』
とか言いながら出ていった神崎さん。部屋を出る直前にウィンクをして行く辺り、エル先生に近いものを感じる。
しーんと静まり返る部屋。
驚きと混乱に隠れた黒いものは、頭が冷やされると途端に姿を現す。
「…ウリエラ、どうした?」
何事も無かったかのような目でこっちを見る冬夜が憎い。その視線に、自分、は何もおかしくないのだと、僕が異常なのだと言われているような気がして。
「別に…」
わざとじゃないけど素っ気なくなる僕の返事。
「どうしたんだよ」
「だからなんでもないってば!あ、ねぇ、冬夜。僕の血、吸ってよ。」
「本当にどうした?おかしいぞ、お前。」
全く何も分からないみたいな口調で聞いてくる。
「ほら、早く。それとも神様の血が美味しかったから、間に合わせみたいな天使の血なんていらない?」
こんなこと言いたくないのに。
零れる言葉は止まることがなくて、絶対に冬夜を傷つけるって言葉を戸惑うことなく、スラスラと紡いでいく。
「は、なに言ってんの。誰がそんなこと言った?」
少し棘を含んだような冬夜の言葉が、僕に刺さる。
「誰も言ってない…。」
「じゃあなんでそうなったんだよ。」
「冬夜が悪い。」
そう告げると驚いた顔をした。何がおかしい?全部君のせいだ。僕がこんなにイライラするのも、全部。
「俺なの?なぁ、教えてよ、ウリエラ。どうしてそんなに怒ってるの?」
「知らない。」
「そう。じゃあ俺もウリエラのことは知らない。で、血も吸わない。」
子供を宥めるような優しい声で、残酷なことを言う。行かないでって引き留めようと必死な僕を、なんでもないように突き放す。
「もういい。冬夜なんて知らない。」
バタバタと出てきた僕を、追いかけてくる人はいなかった。
別に追いかけてきて欲しかったわけじゃない。でも、それが僕なんてどうでもいいんだって言ってる風に見えて悲しくなる。
どうして分かってくれないの?
僕の気持ちと貴方の気持ちは一緒だと思ってた。
冬夜を責めるような感情しか浮かばない自分に絶望する、静かな昼。
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