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買い物 3
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「シルバーの薔薇の意味をご存知ですか?」
「へ?」
「いえ、熱心に眺めてらしたものですから。迷惑だったら申し訳ないのですが。」
声をかけてきたのは初老の男性。物静かな雰囲気は、この店によく溶け込んでいる。
「どんな意味があるんですか?」
「”美や魅力を引き出す”そして”愛・温かい心”。薔薇はギリシアの女神、アフロディテの花で、アフロディテは愛と美の女神ですからね。」
実際には女神なんていない。神様は1人だけ。唯一無二の存在。
でも、美や魅力。愛。僕が欲しい物。僕に欠けているもの。
「モチーフに意味があったんですね。ただデザイン性だけなのかと思ってました…。」
「他にも色々とありますよ。あと、これはアクセサリーだけじゃありませんが、本当に気になる物、本当に欲しい物とは惹かれ合うんです。しかもそれって、自分が今持っていないものだったり、必要としているものだったり…。心惹かれたものが、自分の半身だとか、考えてみるとワクワクしませんか?」
初めてあったばかりのこの店主に、今の僕の心を見透かされたような気がした。
「ウリエラ、そろそろ行きましょうか。」
僕達から少し離れた所で物色していた兄さんには、会話の内容は聞こえてなかったらしい。
「分かった!すぐ行くけど…」
チラリとそのシルバーに視線を向ける。すごく心惹かれるんだけど、それが僕のものになるには、少し早いような気がして。
「大丈夫ですよ。ここはなくなりませんから。気が向いた時に、いつでも来てください。その子も、あなたが来るのを待ってます。」
商品をわが子のように言う店主は、なんだか不思議な人だった。最初から、全部分かってるみたいな。
「ふふ、ありがとうございます。また来ますね。」
「ええ、お待ちしております。」
「ウリエラ、行きますよ。」
挨拶をして扉に手をかけると、静かだった部屋に、外の喧騒が流れ込んでくる。
カランと鳴ったドアのベルが、入った時よりも軽やかに感じた。
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