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買い物の続き
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「あとは…うん。こんなものですかね。」
兄さんがカゴに入れているものを見るあたり、今夜はカレー?
「ウリエラ、今日はカレーですよ。」
ほら、正解。
「ママーお菓子買っていい?」
どこかから聞こえる子供の声。母親にお菓子を買ってほしいと強請っているみたいだった。
見回してみると、親子連れが多くて。
”お母さん””ママ””お父さん””パパ”
小さい頃は買い物に来るのが嫌だった。なんで僕にはそんな存在がいないんだろうって思ったし、なんだか彼らと僕は違うモノのような気がしたから。
ずっと、兄さんと一緒だったけど。
「ね、兄さん、ポッキー買ってい?」
「仕方ないですね、いいですよ。」
僕には兄さんが”お父さん”で”お母さん”で、そして”兄さん”だった。
ダメなことをしたらしっかり叱ってくれる。でも、イイことをしたらしっかり褒めてくれるし、充分に甘やかしてくれる。
両親がいないっていう劣等感はあったけど、不思議と寂しくはなかった。
兄さんが持ってくれているカゴに、お菓子の箱を入れる。そして兄さんの手をとって、早足でレジへと向かった。
「ほら、行こう兄さん。レジ混んできちゃうから。」
「ええ。」
ぎゅっと握られた手に驚きながら、それでも嬉しそうにふっと笑った兄さんに、僕も嬉しくなる。
買い物も、そんなに悪くないのかも知れない。レジを通って、荷物をもって帰途につく。
あーあ、帰りたくない。
帰ったら冬夜に会わなきゃいけないから。もっと、傷つかなきゃいけないから。
「大丈夫ですよ。冬夜もそこまで馬鹿じゃありませんから。」
どういう意味だろう。
「それってどういう…」
視界によく見知った人物が入った気がした。さっきのアクセサリーショップに入っていく姿を、ついつい追ってしまう。
「どうしました?」
怪訝そうな表情をする兄さんは、多分気づいてないんだろう。見間違いかもしれない。
「んーん、なんでもない。」
先を行く兄さんをパタパタと追いかける。
紅く紅く染まっていた空が闇に飲まれる。まるで今の僕のように。
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