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出立
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今はもう日暮れ。空には煌々とした月が姿を表していた。
《今日の夜に迎えの者が行くと思います》
その言葉を信じて今か今かと待ちわびるのは、多分俺だけじゃない。
チャイムが鳴った。
「お迎えに上がりました。御門様、天原様」
開けると真っ白な軍服をきた神経質そうなメガネの男が立っていた。癖のなさそうなストレートの銀髪を、丁寧に後ろへと固めている。
多分この男は、神崎の側近。表向きは全く嫌悪感を出していない。でも、ゴミを見るような目つきは、気に食わない。
「灰吏、ひな、行くか」
それでも行かなきゃいけない。帰りがまた、3人だけだったとしても。
ひなは無言で頷く。
灰吏は、微かに笑みを浮かべていた。その切れ長の瞳以外は。
「それではこちらに」
家の前に停められた1台の車。その後部座席のドアが開く。続々と乗り込み、最後にはそのメガネが。
まさか一緒に乗るとは思わなかった。
さっき一瞬感じた不快感が、再燃する。このまま天界までずっと一緒かと思うと、少し、いや、だいぶ気が滅入りそうだった。
「へ?車で行くの?」
乗り込んだものの、ひなが素っ頓狂な声を上げる。それに少し空気が和らいだ。
「はい。天界も魔界も、移動は基本的には車です。まぁ、戦天使には特殊な権限が与えられているので別ですが…」
すかさず返答するのは灰吏。
「戦天使ってなんですか?」
「そういう天使の仕事みたいなものです。人間に過剰に危害を加える悪魔を討伐する天使の職業ですね。私やウリエラ、そしてミカも戦天使ですよ」
「申し遅れました。私は戦天使課課長ジャン ミカと申します。以後お見知りおきを」
その挨拶は全員に向けられたようでいてそうじゃない。
この中で敵でも味方でもない人物、ただ1人、ひなだけに向けられたものだった。
「え…と、宜しくお願いします?」
返答したのも、ひなだけ。
でも絶対気づいてる。
さっきの挨拶が自分ひとりに向けられたものであることにも、この場の空気が良くないことにも。
だけど敢えて、返事をすることを選んだ。
波打ち際に建てられた砂の城を、壊さないために。
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