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嘘つきの天使
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「お初にお目にかかります。この度戦天使課課長に就任しました、ジャン ミカと申します。以後お見知りおきを」
「ミカ…ということはジルさんと関係ある?」
ジルというのは私の父。
「ええ。私の父になります」
「やっぱり。じゃあ君はジルさんに連れられてきた男の子だ。大きくなったね」
”大きくなったね”なんてやけにジジくさいことを言った神様。あの頃からどこか大人びたところはあったが、こんなに人生を達観したようなところはなかった。
「貴方もあまり年の頃は変わらないと思われるのですが」
「ん?あぁ、生きてる時間が違うからね」
”生きている時間が違う”
言葉のとおり受け取った。違和感が残る。
今までのようにその内に秘める絶望を、表情に出すことはなくなっていた。
でも、声に含まれるそれは、全く消えていなかった。全く変わってしまったと思われた彼の、唯一変わらなかったところ。
かつての私が最も変えたかったところであり、その変化のなさに喜んだところ。
私たちの出会いはこんなものだった。
あれから何年経っただろう。その長い間をかけても未だ心を開いてはくださらない神様。それでこそ燃えるというのもあるのだが、ウリエラ クロスフォードに先を越されそうで気が気ではない。
▽
「さーてと、ミカに怒られそうだから仕事すっかなー」
調子を取り戻したらしい神様の声に、私はようやく角から頭を出す。
「こんなところで何をしているのですか、神様?」
「えっ、み、みみみ…ミカ?どこから…聞いてた?」
「私に怒られるから仕事をしなければ、と仰っているところからですが、何か問題でも?」
一瞬だけほっとするような顔を見せた神様。こんなふうに一瞬でも表情に本心が出るようになっただけ、進歩かもしれない。
最初はそんな隙すらもありませんでしたから。
「いやー、問題はないんだけどね?ちょーっと君に聞かれるのがまずかったかなーなんて」
いつもの軽薄そうな笑みに戻る。
「まずいもなにも、早く仕事をなさったらどうです。貴方がチェックしないと進まない案件が……」
「っそ、そうだミカ、君もたまには休暇を取ったらどうかな。ゆっくりと」
説教から逃げようと苦し紛れに話題を変えようとする。そんなものでは私は撒けないということを、わかっているだろうに。
「貴方が仕事をすべてこなしてくださらないと、私の休みは永久に来ないのですよ。そんなに私を休ませたいのなら、貴方がまず執務を終わらせてください」
ボヤきながらも机には向かう。根は真面目な神様。
また一つ、神様に嘘をついた。
貴方の絶望を理解できるまでに、あとどれほどの嘘を積み上げればいいのだろう
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