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勝てない相手
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天界の中央、最上階の廊下は、やけに音が響く。ただ今、そんなことは気にならない。
とにかく1本の、ただただ長い廊下がもどかしい。
さっきまでは、怒りが強かった。自分でもコントロールできないほどの感情の渦に、飲まれていた。
でも今は、冴えている。
さっき一瞬感じた冷静さがまだまだ熱した鉄板のようであったと感じるくらいには。
何を言おうかなんて考えるだけ無駄で、本当にただただ、早くこの廊下が尽きることだけを願う。
危うく通り過ぎかけたその部屋から聞こえる話し声が、主の在室を知らせる。
一息、短く吐き出す
「おい、神崎!!いるんだろ、出てこいよ」
返事がなかったら無理にでも開けようと思ったそのドアの向こうから、いつもの素っ頓狂な声が聞こえる。
「はいはーい、どうしました?」
しばらくして開いたドアから覗くのはいつにも増してニヤニヤした顔。すごくムカつくその表情に、さっき収めた怒りが再燃しそうになる。
「お前、さっきウリエラに話したろ、あのこと?」
「あのことってなんです?」
「とぼけてんじゃねぇよ。アイツがこっちに残るとか言い出した。ってことはあの戦争云々の話をしたとしか思えねぇだろ」
「俺はちょっと残って?って言っただけですよ?」
ちょっと残ってだ?
そんなんのために俺は振られたって?
「冗談も大概にしろ。分かってて言ったんだろ? アイツだったら俺のことになったら断らねぇって」
「そうですねぇ……でもウリエラくんは快諾してくれた。その事実に変わりはありませんから」
笑みを崩さないのは余裕の証。悔しいけど、俺の方がじりじりと追い詰められていた。
「でもそれはっ」
「それは俺が無理矢理言わせたって? 証拠はないでしょう?これ以上は無駄ですね」
”これ以上は無駄”
証拠もないし、情報もない。俺と神崎の差は明らかだった。
一年前の俺だったら、諦めてたんだろう。というか他人のためにここまで動こうなんてしなかったはずだ。
だけどあんな悲しい笑顔が最後なのは納得いかない。
「なぁ、神崎。お前の目的はなんだ?ウリエラだけなら俺たちをここまで呼ぶ必要はなかった。だったらなぜ?」
僅かに口元の弧が、歪んだ気がした。
「あなたには関係ありませんよ、冬夜さん。早くお引取りを」
少し下がったトーンが、触ってはいけない部分に触れてしまったことを告げる。
押せば行ける?なんて思ってしまった俺が馬鹿だった。
「関係なくないだ……ぅわっ」
パチンと指が鳴らされた。
体を包む浮遊感と、暗転する視界。
「余計なことに首突っ込んでんじゃねーよ、糞ガキが」
最後に聞こえた声が、到底神崎のものとは思えなかった。
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