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冬夜じゃない
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あの後ひと仕事終えた俺は、再び執務室に戻るべく、ドアを閉じた。
すると、目を真っ赤に泣き腫らしたウリエラくんが、廊下を歩いているのを見つけた。
「ウーリエーラくん?どうしたの?大丈夫?」
俺の存在に気づかないようにフラフラと歩く彼は、生きる目標を失ってしまったようで。
声をかけてもこちらを見ることもなく、歩いていった。
ここまで行くと少し面白くない。
俺のことだけを見てて欲しいわけじゃないけど、でも無視って……。
仕方がないから少しちょっかいをかけてみることにする。
一定の速さでふらりと歩いていく彼の背後を付け、そして
「ウリエラ?」
いつもより少し低めの声、そう、あの親子に似せたような声で名前を呼びながら彼の首元に手を回す。
「冬夜!?」
さっきまでの危なっかしい動きが嘘のように、顔をこちらに向けるのは素早い。
俺の顔を認めるなり悲しいようなホッとしたような表情を見せる。
悲しいのはわかる。2人がどれだけ愛し合ってたか知ってる俺からしてみれば。
でもなんでホッとしてるんだろう?
「ウリ……」
「神様でしたか。何してるんです?もうお仕事終わったんですか?」
ぱっと表情を一転。顔には笑みを浮かべた。
呆気に取られた俺の手を、やんわりと首元から外していく。
「あ、うん。終わってはないんだけどね、ちょっと休憩しようかな……なんて」
あはは、と笑ってみせるけど、内心は穏やかじゃない。調子が狂う。
この子は普段純粋な子供みたいなのに、突然大人びた態度をとるから
「そうですか。早く戻らないとミカ課長に怒られちゃいますね」
グイグイと執務室の方に押される。
こんな状態の彼を一人残していくのは心配だったけれど、でも俺は歩を進めるしかない。
彼はその場に立ち止まったまま、俺とウリエラくんとの距離は広がっていくばかり。
「あ、神様!!」
かけられた声に、即座に足が止まる。
「冬夜達って、いつ帰るんですか?」
ここまで来ても冬夜、か。
「春陽さんたちはもう帰ったよ。用事があるって」
嘘じゃない。そのために俺は今、部屋を出ていたんだから。
「そう……なんですね。最後に挨拶くらいして行ってくれたら良かったのに」
そう言った彼の瞳には涙が浮かんでいる。タダでさえ泣き明かして腫れてる目が、もっとひどいことになってしまいそうで。
「あれ?おかしいな……もう泣かないつもりだったのに……」
涙を流すウリエラくんを、俺は黙って見ているしかできなかった。
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