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四
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「お前、馬鹿なのか……」
腕から、大量に血を流しながらも、譲らない男の態度に、先に根負けしたのは凪だった。
血の滴る腕から赤く染まった口を離し、男の顔を見上げる。痛みのせいか、僅かに歪められた男の整った容貌を見て、凪は溜息を零した。
「出て行かないから、離せ」
「分かった」
そうして、漸く凪は男の腕から解放された。口元を拭いながら、ちらりと、男の腕へと視線をやる。未だに止まらぬ血が、男の腕を伝っていた。
少し、やり過ぎたかもしれない。そう、思うも直ぐに、自分は悪くないと考えを改める。元はと言えば、男が凪を離さなかったのがいけないのだ。
「謝らないからな」
「心配しなくても、直ぐに治るさ」
「…………」
しかし、何を勘違いしたのか、男はそう言って、自らの着物の袖を千切ると、傷口に巻き付ける。それを横目で見ながら、凪は一瞬押し黙った。
「それで、お前は俺を引き留めてどうするつもりなんだ」
しかし、直ぐに男の真意を探ろうと疑問を口にする。
「太らせる」
「……はぁ?」
布きれへとなった物を腕に巻き終えた男から、返ってきたのは予想外な言葉だった。まさか、自分を食べるつもりなのだろうか。男が鬼である事を考えれば、それも頷ける。こんな痩せ細った身体では、腹の足しにもならないだろう。
「そんな折れそうな身体、見てられないんだ。お前が嫌がっても三食、食わせるからな」
「………………」
けれど、男に凪を食べるつもりはないらしい。むしろ、心配されている。
「死なれたら困るからな」
「何で……」
「うん?」
「何で、そこまでするんだ……」
「さぁ、な。よく、お人好しだとは言われる」
額から、二本の角を生やした者の言葉とは思えなかった。あまりに、似合わない。お人好しな鬼なんて、とんだ笑い話じゃないか。
けれど、目の前の鬼は真剣その物だった。真っすぐと、凪を見つめる瞳。自分とは違い、生命力に溢れた紅い瞳が、その言葉の数々を本心から言っていると証明している。
「好きにしろ」
「あぁ、そうする」
そんな男の言葉に、何だかどうでもよくなっていた。それに、何処に行こうと何も変わらない。それならば、男の好きな様にさせることにした。
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