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五
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「これでは、使いづらいな。別の部屋を案内しよう」
男が、そんな提案をしてきた。確かに、男の血の匂いが充満したこの部屋に、長くいたいとは思わない。素
直にその申し出を凪は受け入れる。
「そうだ、歩けるか? なんなら、運んでいくが……」
「自分の足で歩ける」
凪がこくりと頷いたのを確認した男が、部屋を出ようとしたところで再び凪の方を向く。先ほど、倒れそうになったことを気にしているのだろう。
生憎、男に頼ろうとは思わなかった。それに、もうあんな失態を見せるつもりはない。
「なら、着いて来い」
そう言って、今度こそ男は部屋を後にした。凪もそれについて、部屋を出る。
部屋の外は長い廊下が続いていた。庭に面しており、葉を赤く色づかせた木や、池が見て取れる。思っていたよりも、立派な屋敷の様だ。
「そういえば、名乗ってなかったな。俺は紅夜という。お前は?」
道すがら、前を行く男が此方を少し振り向き名乗る。
「……凪だ」
凪は少し悩んだ末に、自らの名を口にする。本当は、あの人の事を思い出すから、あまりこの名が好きではない。しかし、これ以外に名乗る物もなかった。
「凪か……良い名だな」
「別に……」
何と返していいのか分からず、素っ気なく返してそっぽを向く。褒められても嬉しくなんてない。
それからは、お互い無言で歩いた。
月明りだけが頼りに廊下を進む。庭から見える月は三日月で、既に高い位置にある。夜も深い時刻なのだろう。
ぼんやりとしながら歩いていると、とある部屋の前で紅夜が立ち止まった。
「すまない、此処しか余ってなくて……」
案内されたのは、先程よりは生活感のある部屋だった。と言っても、机と小さな箪笥があるだけの質素な物。それでも、先程よりはマシだと言える。
「俺の部屋なんだが、好きに使ってくれ。それから、押し入れに布団があるから」
それだけ言って、男は部屋を出て行こうとする。
「お前はどうするんだ?」
「あの部屋に戻る。片付けないといけないからな」
「そう、か」
男が出て行くの見送って、座り込む。
何だか、凄く疲れた。瞼が重い。
畳の上に横になりながら、お人好しな鬼の事を思い浮かべる。まだ、出会ってからあまり経っていないが変わり者だという事は分かった。少なくとも凪の知っている鬼とは当てはまらない。
そんな事を考えているうちに、凪の意識は無くなっていた。
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