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十一
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「心配せずとも、追い出すなんて事はせぬよ」
流石、覚と言うべきか。凪が何も言葉を発していないにもかかわらず、返答が返ってくる。
「この屋敷の者に危害を加えぬのならば、儂は大歓迎じゃからのう」
にこにこと少女は微笑む。けれど、凪の気持ちは晴れない。それならば昨夜、紅夜に傷を負わせた自分は此処にいる資格はないのではないか。
「手負いの獣に、容易く触れた紅坊にも非はあるからのう。 それに、あれくらいの傷ならばもう治っておるじゃろう、紅坊?」
「ああ」
相変わらず、凪の内心を読み取った少女の言葉で、紅夜が自らの着物の袖を捲る。確かにそこには、昨日深々と噛みついたはずの傷跡は、噛み痕すら残さず綺麗に無くなっていた。
「……」
回復の速さに言葉を失うのと同時に、少しだけ複雑な心境になる。凪の全力の抵抗なんて、紅夜からしてみれば些細な事なのだと言われた様だった。
「ふふ、凪は負けず嫌いじゃな」
「…………」
その言葉に、凪はムッと眉間に皺を寄せる。
「おやおや、そんなに嫌そうな顔をせんでもよかろう? 折角の綺麗な顔が台無しじゃ」
そんな凪の顔を見た少女の言葉に、凪は更に眉間の皺を深くした。
「……綺麗なんかじゃない」
「そうかのー? 儂も年じゃからのう……目が悪くなっとるのかのう……。どう思う、紅坊?」
ぼそりと呟く様に発した言葉は当然の様に少女に拾われ、少女は目を瞑り労わる様に自らの瞼を擦りながら紅夜に問いかける。
「そうだな……」
考え込む様に口籠る声と同時に隣から視線を感じ、凪は横目で紅夜の方をちらりと見上げた。その瞬間、此方を見ていた紅夜とばっちりと視線が合い固まる。そんな凪に、口元に笑みを浮かべて紅夜は答えた。
「心の目は正常だと思うぞ」
「ふっふーん! そうじゃろう? そうじゃろう!」
紅夜の言葉に満足したのか、少女は満面の笑みを浮かべて体を左右に揺らす。
「…………」
そんな少女の様子を見ていると、何だか馬鹿らしく思えてきた。
しかし一瞬、あの人の顔が頭を掠める。思わず目を瞑り、その顔を消す様に頭を微かに振った。
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