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十二
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「あまり、抱え込むものではないぞ」
再び目を開くと、そこには先程まで、楽し気に笑っていた少女は居なかった。その表情は真剣で、それでいてどこか悲し気にも見える。
「そう言えば、きちんと名乗ってなかったのう……。儂の名は心じゃ。この屋敷の主として、お主を歓迎しようぞ。好きなだけ居てくれて構わぬよ」
「…………」
目の前に座る少女の、先程までとの違いに言葉を無くす。今までの朗らかな雰囲気とは違い、緊張感を含む空気に、この少女がこの屋敷の主であるのだと漸く実感を持つことができた。
「じゃから、困ったことがあれば、何時でも此処に来ればよい」
けれど、それも長くは続かず、直ぐにそんな雰囲気はなかった事の様に、心は柔らかい笑みを浮かべる。
「……気が向いたらな」
詰めていた息を零すように凪は言葉を発し、心に背を向けた。
もう、用は終わったとばかりに凪は部屋を出て行く。実際、これ以上の会話は不要だった。
「紅坊」
そんな凪の後を追うように、紅夜が部屋を出る刹那、心が紅夜を呼び止めた。心の声に、進めようとした足をピタリと止めて紅夜は振り返る。
「気を付けておやり」
「ああ、分かってる」
静かな、二人のやり取りは直ぐに終わりを迎え、障子戸の閉まる音を最後に、今度こそ部屋に静寂が訪れた。
「いらぬ、心配じゃったかのう」
少し間を置いて、ぽつりと心の呟く声が部屋に響く。去り際に、当たり前だと言わんばかり頷いた鬼を思い返し、屋敷の主は笑みを浮かべた。
自分が気に駆けずとも、あのお節介な鬼は進んであの黒猫の世話をするのは目に見えている。それでも、声を掛けたのは、それだけ凪の抱えているいるものが根強いものだったからだ。
きっと、一筋縄ではいかない。しかし、楽しくなる。
これから起こるであろう出来事を思い描き、屋敷の主は密かに胸を躍らせた。
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