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人知れずこそおもひそめしか
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高校二年生の宮本桜児(みやもと おうじ)は、授業中、小坂愛出人(こさか おでと)先生をうっとりと眺めていた。
小坂先生はイケメンだ。ほかの生徒も、ほかの先生も、みんなそう言っている。優しくて、教え方もうまくて、生徒も先生も、みんな小坂先生が大好きだ。
だから、遠くから、小坂先生の姿を見ているだけで、声を聞いているだけで、宮本は幸せだった。
小坂先生が、教科書片手に教壇で、
「人知れずこそおもひそめしか……」
と恋のうたを語っていた。小坂先生の唇から、そんな恋のことばを聞けるなんて、たとえ、それが単なる古文の解説であっても、なんだかドキドキする。
ほんとうに、小坂先生に心から恋のことばをつぶやかせる、ほんとの恋の相手が、うらやましい。
先生は独身らしいけど、恋人は、いるのかな? みんなは、小坂先生に「恋人はいますか?」と何度も質問するけれど、いつも小坂先生は「秘密」と笑って答えるだけで、教えてくれない。
そう、まさに、この壬生忠見が内裏のうたあわせで詠んだ歌のように、宮本は、小坂先生を、人に知られないように、こっそり想いはじめていたのだけれど……。
放課後、宮本が帰りじたくをしていると、後ろの席の村田悪照(むらた おてる)が、
「よう」
と声をかけてきた。
村田は、五十音順で宮本の後ろというだけで、宮本と仲がいいわけではなかった。だが、教室の席は五十音順なので、村田は、宮本の席の後ろだった。
村田は運動部に所属していて、がっしりした体つきだった。宮本は、宮本より背の高い村田を見上げた。
村田は、宮本に、いきなり、
「宮本ってさあ、小坂のこと、好きなの?」
と聞いてきた。
「好きだよ」と答えればよかったのかもしれない。だが宮本は、人を好きになるのが初めてだったので、恥ずかしくて、何も言えなくなってしまった。
「小坂ってさ、確かに、かわいいって言われてるけど……」
村田は、いったん間を置いてから、
「でも、男だぜ?」
と言った。
宮本の頬は、勝手に熱くなった。
「宮本って、男が好きなの?」
村田が、にやにやした。
「そんなこと!……ないよ」
宮本の声が大きくなりすぎて、まわりの生徒が二人の方を見た。村田は、
「ほんとかぁ?」
と言いながら宮本の腕をぐっとつかんだ。宮本は、村田の手を振りはらおうとしたが、村田の力は強くて、ふり払えなかった。
「俺さあ……宮本となら、ありだぜ」
村田は、宮本の耳もとで言った。村田の息が宮本のほほにかかった。
「なんのこと?」
宮本は、村田から離れようとした。だが、村田は宮本の肩を抱きよせて、ささやいた。
「だからぁ、宮本とエッチなこと、してもいいってこと」
宮本は絶句した。
「宮本は小坂を毎晩オカズにしてるんだろ?」
宮本は、かっと頬が熱くなるのを感じた。
宮本は、恥ずかしくて何も言えずに、鞄をつかんで教室をとびだした。
下駄箱のところで村田に追いつかれた。村田は、宮本の腕をつかみ、宮本の顔を、のぞきこんで、言った。
「宮本って、カワイイからさ。からかっただけだって」
そして村田は、宮本の腕をつかんだまま言った。
「あのさ……俺と、つきあわない?」
宮本は、警戒して後ずさりした。
「友達としてだよ」
村田は、宮本の腕を引っ張って言った。
「小坂が好きだから、俺とつきあえないのか?」
「なんで、そんなこと言うんだよ」
宮本は、逃げようとしたが、村田につかまえられた。村田は宮本の耳もとで、いやらしく、ささやいた。
「宮本ってさあ、小坂の授業中にアソコ触ってるだろ?」
そんなこと!
「俺、宮本の後ろの席だからわかるんだよ」
村田は、息を、はあはあさせて言った。
「なあ、小坂のかわりに俺が触ってやろうか?」
村田の声がうわずって、村田の手が、宮本の股間にのびた。えっ!?
他の生徒たちらしき、話し声が近づいてきた。村田は、宮本から、ぱっとはなれた。二人は、何ごともなかったような顔をして靴を履いて昇降口を出た。
村田は、宮本についてきた。どうやら帰り道は、いっしょの方向らしい。宮本は、村田の腕から逃れられさえすれば、村田から解放されるものと思っていたのに、なぜか村田と並んで、いっしょに歩いていた。下駄箱の前のできごとが、いっしょに帰らざるをえない雰囲気をつくってしまっていた。宮本は気まずかった。
「宮本、逃げるなよ、友達だろ?」
宮本が、ちょっとでも離れようとすると、村田は、宮本の腕をつかんできた。
そして雑居ビルの前に来たのだった。
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