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先生に捕まる
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「そこ、まだいたのか。施錠されるぞ」
小坂先生のとおる声が教室に響いた。
夕闇につつまれた教室。宮本らの姿は、よく見えなかったのだろう。そう思いたい。
「はい」
宮本は答えて、急いで前をかくした。見られたかも。声も聞かれたかも。きっと、見られたに違いない。村田に触られて、喘いでいるところ。いたたまれなかった。教室の扉のところで小坂先生が待っていた。
「先生、さようならー」
村田は言いながら、宮本を小坂先生の方に押しつけた。
宮本は、よろけて先生にぶつかった。
「すみません」
小坂先生の体温を、ふわりと感じた。村田は、一人で先に行ってしまう。村田の姿が視界から消えた。
「宮本」
小坂先生が、宮本の腕をつかんだ。叱られる! 宮本の腕をつかんだ手の強さに、宮本は、とっさに思ったが、かけられた言葉は、いたわりに満ちていた。
「大丈夫か?」
小坂先生の思いがけない優しいことばに、涙がじわりとにじんだ。大丈夫じゃなかった。
「何か、されていたんじゃないのか?」
先生が宮本の顔をのぞきこんだ。恥ずかしかった。
小坂先生に、村田に無理やり触られているところを見られてしまったこと。エッチな声を聞かれてしまったこと。小坂先生のことが好きなのに、村田とキスしてしまったこと。すべて打ちあけて、ごめんなさいと言って、小坂先生の胸に、わっとすがりついて、思うぞんぶん泣きたかった。
でも、ためらいの気持ちが、宮本を押しとどめた。高校生にもなって、そんなことできない。
宮本は、こみあげそうになる嗚咽をのみこんで言った。
「ちがいますっ」
宮本は、首を横に振って、この恥ずかしい状況から逃げ出そうとした。
小坂先生の手が滑って、宮本の手と触れあった、と思ったら、ぐっと手を握られた。小坂先生に捕まってしまった。「小坂先生、先生のことが好きなんです」ことばが、のどもとまで出かかった。のどが涙がつまったように痛かった。
小坂先生の顔が、再び、近づいた。
「どうしたんだ?」
やめてください。優しくしないで。涙がこぼれるから。
「なんでもないです」
宮本は小坂先生から顔をそむけた。
「ほら、そうやって、目も合わせない」
小坂先生は意地悪だ。手を放してくれない。小坂先生の手は、あたたかかった。嘘みたいだ。毎晩想像してる先生の手が、自分の手を強く握って放さないなんて。だめだ、こんな時に、夜な夜な想像してることなんて、思い出したりしたら。
「はなしてください。ほんとに、なんでもないですから」
宮本は、必死で小坂先生の手を振りほどこうとした。小坂先生は、宮本の手をはなしてくれた。宮本は、かばんで股間を隠した。
「村田に、いじめられているとかじゃないよな?」
小坂先生は心配そうにたずねた。
「ちがいます」
村田にキスしてもいいと言ったのは自分なのだ。それに、宮本が小坂先生のことが好きなのは事実で、村田は、ほんとうのことを指摘しただけだった。
宮本が、否定すると小坂先生は、
「ならいいんだけど」
と、まだ腑に落ちないような声音で言った。
「すみません。失礼します」
逃げ出そうとした宮本の背中に、小坂先生の声がかかった。
「なにか悩んでいることあるなら、聞くぞ」
一瞬、見透かされているようで、どきっとした。でも今は、どきっとしたことすら恥ずかしい。
「さよなら」
宮本は、走って階段を駆け下りた。
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