アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
変わりゆく1
-
◇◇◇
もうすぐ冬休みに入る頃のことだった。
峠にあるホテルの中で目隠しをしながら待っていると、トモさんが後から来た。毎度のことながらドアの前で立ち尽くすトモさんに声をかける。
「早く入ったらどう?」
「は、はい……!」
声を上擦らせてトモさんは返事をした。ドアが安っぽい音を立てて軋み、バタンと閉まる。
いつもならすぐにシャワーを浴びに行くトモさんは、部屋に入ってからも動かない。
「どうしたの?」
「……嫌だったら、いいんです、けど」
ためらいがちに前置きをしてトモさんは続けた。
「唐揚げ、作ったんです。かーくんに食べてもらえたら嬉しいな、なんて……」
声はどんどんと小さくなっていく。
手料理なんて手編みのマフラーぐらい重いし、変なものが入っている可能性を考えればもっとたちが悪い。
だけどトモさんが三木先生だと分かっているので、それほど食べることに抵抗は無かった。
むしろ唐揚げは大好物だし、小腹が空いていたから食べたいくらいで。
「ありがとう。唐揚げ好きなんだよね。俺の主食というか」
「へっ? 食べてくれるんですか」
トモさんは自分で作っておいて、俺が本当に「食べる」と言うとは思ってなかったのか、素っ頓狂な声をあげた。
「せっかくの唐揚げだから貰います」
「ありがとうございます……! テーブルの上に置いておきますね。ボクいつもより長めにお風呂入ってくるので、ゆっくり食べてて下さい」
声を弾ませたトモさんは走るように風呂場に向かった。
手間も材料費もかけて作ったのはトモさんなのに、嬉しそうにお礼まで言う。そんなトモさんを、“いじらしい”とは思うがそれだけだ。
好かれていると分かっていても、やはり男と付き合う気にはなれないし、周りに関係を知られたらと思うとゾッとする。
トモさんに対して嫌悪感はないものの、同性同士の恋愛を想像することすら難しい。今のご時世モラルを問われるから口に出さないだけで、気持ち悪いとさえ思う。
ため息を吐き、アイマスクを外してベッドから下りた。
テーブルの上には飾り気のない、よくあるタイプのタッパーと割り箸が置かれていた。熱と水分を逃がすためかタッパーの蓋はわざとずらされ、キッチンペーパーが挟み込まれている。
こんなに気遣いの出来る人なら、女であれば良かったのに、勿体ない。
そんなことを思うことすらモラルに反しているんだろう。頭では分かっていても、心がそれに沿うわけじゃない。
だけど冷めているはずの唐揚げは温かくて、懐かしい味がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 52