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変わりゆく13
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「拳銃を見る度に死にてぇなって思う日々だった。そんな時、いつも弁当を買いに行ってくれてた後輩が死んだ。なのに周りでは、“夜居なきゃなんねぇのに職場で自殺するなんて迷惑なやつだな”なんて言うだけで、生活は何も変わらなかった。アイツが居なきゃ多分俺が死んでたと思う。アイツのおかげで俺は踏みとどまった。だから、皆が忘れても俺だけは忘れたくないって……。でも、」
かーくんはそこで言葉を止め、唐揚げを口に入れた。ゆっくりと噛んで飲み込む。いくらボクでもそこに性的なものは感じなかった。
「……でも?」
長い沈黙に耐えられなくなり、ボクは続きを促した。
「戒めみたいに毎日唐揚げを食べるのなんて意味なかった。ただ救えなかったことを後悔してるだけだ。俺は何を忘れないようにしてたんだろう。……トモさんの作った唐揚げを食べて、自然とアイツの笑顔が浮かんできた。アイツとくだらないことで笑ったこともあったよなって。覚えていたいのはそういうことだったよな気付けた」
“だから、ありがとう”
そう言ってかーくんはようやく目元を拭った。
ボクはコンロの火をつけ、黙々と唐揚げをあげる。言うべきことは見つからなかった。かーくんだってボクが何か上手いことを言うだなんて思ってないだろう。それなら今できることをするしかない。
今できることといえば、かーくんの大好きな唐揚げをあげることだけだ。
「美味しいものは、美味しいって思いながら食べなきゃダメです」
そう言って、こんがりとあがった唐揚げを皿の上に乗せた。
“美味しいものは、美味しいと思って食べなきゃダメだよ。食べる人が美味しいものを美味しいと思って食べられないとしたら、作り手の腕と愛情が足りないんだ”
ばあちゃんの口癖。果たしてボクの腕と愛情は足りているだろうか。
かーくんは唐揚げを口に放り込んだ。熱かったらしく、はふはふと息をしている。それでも口の端はほんの少しだけ上がっていた。
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