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エピローグ
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暦の上では春になり、一人も欠けることなく生徒が卒業していったことにボクは安堵していた。
仕事帰り、かーくんのアパートのインターホンを鳴らす。昼間の日差しは柔らかだけど、まだ雪は消えきっていない。夜になると風の冷たさで肌が痛いくらいだ。
「はいはい、今開ける」
かーくんに扉を開けてもらい、風の吹き抜ける廊下から室内に滑り込んだ。
かーくんと関係を持つようになってから何ヵ月が過ぎただろう。さすがにボクも扉の前で立ち尽くすことは無くなった。
「少し温まったら、唐揚げ作りますね」
「その間に米研いでおく」
「お願いします」
最近、セックス抜きでもかーくんと会うようになっていた。ご飯を作って、掃除して――って、家政婦みたいな役割だけど。
夕ご飯を食べ終わり、重くなったお腹を落ち着けつつ食器を片付けた。
かーくんの寝転んでいるベッドに背中をあずける。テレビでは遠い地方の桜の開花情報が流れていた。
「お花見なんて……しないですよね?」
一緒に行きませんか? と誘おうとしてやめる。そんなのまるでデートの誘いみたいだ。調子に乗ってると思われる。
「普段はしないけど、トモさんが行きたいなら行ってもいいよ」
かーくんはどっちでもいい、とばかりに大きく伸びをした。
「本当ですかっ……?」
つい勢いよくマットレスに体重を乗せると、スプリングがギシリと軋んだ。まさかデートをしてもらえるとは思ってなくて鼻息が荒くなる。
「ただ、条件がある」
やたらと深刻な顔でかーくんは言った。
「条件?」
「……唐揚げ作ってくれる? いっぱい」
「ふふっ、いつも作ってるじゃないですか。本当、かーくんって唐揚げ好きだよね」
桜の開花情報が終わって県内ニュースに変わると、かーくんはゴロンと壁のほうを向いた。
「……かーくんっての、そろそろやめない?」
いつも冷静なかーくんにしては珍しく歯切れが悪い。
「じゃあ、なんて呼んだらいいですか?」
「かーくん以外なら何でもいい」
そういえばかーくんの名前は“唐揚げ”からとったんだもんな、と思うと何だか可愛くて仕方がない。
笑っているのがバレないよう声の調子を整えた。
「……じゃあ、望さんで」
返事はなかったので、その呼び方で大丈夫だと受けとっておく。
ボクは望さんの手にそっと手のひらを重ねた。振り払われない。
最近ではセックスの時なら指を絡めてくれることさえある。
「好きだよ」
かーくんの言葉に胸がドキンと跳ねた。
「トモさんの作る唐揚げも、トモさんと一緒に居るのも」
次の言葉で跳ねた胸が沈んでいく。やっぱり、好きなのはボクのことじゃないか。
“愛なんてなくていい”
――とは、強がりじゃなきゃ言えない。それでも側に居られるだけで、今のところは幸せだ。
―END―
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