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下校時間、沢山の人が校門を通り過ぎ、場違いな僕に何とも言えない視線を向けて行く。
それでも決して見逃さないように、必死にあの人の姿を探した。
そして、見つけた
僕は嬉しくて、思わず駆け出してしまいそうだった。
もうずっとこんな近くで顔を見る事なんてなかった。
気配を殺し、窓からはっきりと見えないあの人の顔を見ているばかりだった。
あの人も僕に気付き、とても驚いているように見えた。
僕はあの人の名前を呼ぶ。
周囲の人達も僕とあの人を見ている。
僕は、今度こそ駆け出した。
望む変化を期待して
「…何をしに来た」
地を這う様な声だった。
聞いた事のない、別人の声の様に思えた。
「帰れ」
もう目の前に立っていた僕にそう言うと、あの人は僕を押し退け、また歩き出した。
「おい、あの中学生お前の何?」
あの人の側に居た人がそう大きな声で聞いた。
「近所のうざいガキだよ」
僕の耳に届いたのは、あの人の声だけだった。
周囲のざわめきも、降り出した雨の音も聞こえない。
耳の奧へ奧へと入り込み、何度も鼓膜を揺らすその声は、間違いなくあの人のもので、聞こえた言葉は誤魔化せない程はっきりとしていた。
振り返らない背中は、もう僕の視界にはない。
希望なんてない
もう、何もない
大好きだったのに
それは、僕だけだった
それなのに恋をしていたなんて
本当の気持ちにずっと気付いていなかっただなんて
何て、愚かなのだろう
諦め、隠し、それでも守ろうとしたものは、気付かない内に既に壊れてしまっていたのだ。
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