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あれから数年が経ち、僕は十八歳になっていた。
あの日以来あの人に会う事はなく、知らない間に何処かに引っ越してしまっていた。
さようならも、またねも、何もない本当の別れだった。
帰省する事もあったようだけれど、僕は知らない。
朝は早くから学校に行き勉強をして、夜はバイトをして、それがない日は部屋に籠りまた勉強をした。成績が上がり、バイトも励む僕を、両親は喜びながらも心配していた。
でも意味なんてないのだ。一人の時間をどうやって過ごせば良いのか分からなくて、余計な事を考えたくなくて、ただそれだけだった。
暑くても、寒くても、体調が悪くても、そんな生活を続ける事で僕は僕自身を誤魔化し、保たせていた。
相変わらず、体も気も弱い僕には高校に入ってからも友達と呼べる存在はいない。でもそれを今更辛くも思わない。これが当たり前の事で、それに、一人なら酷く傷付く事もないから良い。
恋だってもうしない。あれが最初で最後の恋だ。誰も知らない、愚かな恋だった。
それなら忘れられたら良いのに、今でも心の中にあの人は居る。
長い間、鬱陶しいと思いながら僕の側にいてくれた。
嫌々ながらも僕に寄り添い、優しく頭を撫でてくれた。
面倒でも眠れない夜は長い時間、電話をしてくれた。
もし再会する時が来るのなら、一言、今までごめんなさいと謝れたら良い。
でも会わないでいる事があの人への謝罪になるのなら、もうこのまま会えなくて良い。
「恭平、にい、ちゃん」
だから、今まで迷惑を掛けてしまった分、幸せになって欲しいと毎日祈り続けているよ
「湊」
もう一生言えないけれど、今でも想っているよ
もう夢なんて当分見ていなかったのに、懐かしい、まだ幸せだった頃の夢を見た。
でも誰かに体を揺すられて、夢の中で笑ってくれていたあの人は、恭平兄ちゃんは、消えてしまって、段々と意識が現実へと戻って行く。
「ごめんな、湊。ごめん」
僕はやっと瞼を開け、届いた光に目を細めた。
「…どうして、泣いているの?さっきまで、あんなに、笑ってくれていたのに」
光を遮るようにして顔を見せたのは、少し大人になった様に見える恭平兄ちゃんだった。ああ、これは夢の続きなのだ。でも何故か恭平兄ちゃんは泣いていた。泣いている理由が分からない。
「夢の中でも、僕になんて会いたくなかった?」
でも泣き続けたまま大きく首を横に振り、僕の手を両手で握るとそっと自分の額に当てた。
「…会いたかった。本当はずっと、側に、いたかった」
僕は困惑した。そして直に感じる感触や温もりが本物である事に気付くと、驚き目を大きく見開いた。
「…どうして」
僕はその手を振り払うと体を起こし、いつの間にか眠っていたベッドの壁側へと逃げた。
再会する事なんてないと信じていた。望んでなどいなかった。どうして、その言葉が頭の中を駆け巡り、僕の思考を完全に止めてしまう。
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