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side ハミド
シオンを抱きしめた手をじっと見ていると、『さっきから何のごっこ遊びに夢中になられていたのですか、ハミド殿下。』側近のカリフが母国語で話し掛けながらジリジリ近づいてきた。
また小言だろうと分かってはいるが、手で制し、口を噤ませる。まずはやらせなければいけない事があるからだ。
『ソノムラシオン、だそうだ‥』この言い方で長年の付き合いには意図が伝わる。
肩を竦めこれ見よがしに大袈裟なため息をつくと、目と顎で近くの部下に指示を出し、部下は黙って礼をするとシオンの後を追っていった。
尾行をつけ、夜までにはシオンの事が色々分かるだろう。
『さて、お車にも乗らず、一般人とお散歩して、先程は挨拶に来たビジネスパートナーまで私に押し付けて‥らしくないですね。この美術館の館長と交渉をなさりにきたのではないのですか?』
そう、ここは今日貸し切りだ。
会場内にいるのはここの館の数人いるスタッフ、あとは全て俺のSP連中だ。
ここからだいぶ離れた専制君主制の国で、俺は第三皇子だ。
先祖は石油で財を成したが、俺達のあと数世代ではこの資源が枯渇することを知っている。
故郷の今ある財をどう繁栄させ国を潤わせるか。
投資は多岐に渡る。
どの案件も現地に自ら出向き、王族の一人として見定めなければ納得して売買出来ない。
数年前は中国の成金どもが自国の美術品を高価で買い漁り、この好景気も長く続かないと判断した俺は、持ち物だった青磁を始めとした中国美術をほぼ全て手放し、纏まった利益を上げた。
さて、この金を次はどこにするかと考えた時に日本が浮かんだ。
あの国よりも堅実で、大きな値崩れもしない日本の美術品は手元に置いておくようにしよう。
そう思い、今回は資金繰りに厳しい大手の日本企業から金のかかる美術館の閉鎖により、手放したい茶道具と水墨画があると内々に電話が来たので、わざわざ出向いた。
歩行者天国によって車を止められ、仕方なく廻り道をするかと相談する、無能な運転手を今日ばかりは褒めてやりたい。
イライラしながらふと外を見ると、羽でも生えてるかのような軽い足取りで歩く男の子が居た。
向かいから駆けてくる来る幼子とぶつかりそうになる瞬間、わざわざ地面に跪いて抱きしめ何か話しながら笑っていた。
その光景を見て、思わず車を降り駆け出して声を掛けたくなる位、神の子供のような人間に出会えたのだから。
大きな壺を眺めていると、館長がすっ飛んできて、説明を始めた。それを別の側近が母国語に通訳する。俺は殆ど日本語が解らないかのように振る舞う。たまにこいつらは日本語で本音を漏らす事もあるからだ。
俺はシオンの可愛い唇の感触を思い出し、つい口元を緩ませながらそれに耳を傾けていた。
『随分と、上機嫌ですね。そんなにその壺がお気に召したのですか』
カリフめ、相変わらず俺が何を考えているのか分かっていて、まるで見当違いな事を言う。
そう、シオンの話をここでするのは今のところ避けたほうが無難だ。どこで耳をそばだてているか解らない輩もいるからだ。
先程のイレギュラーな事態にも、こいつはよく対応した。
側近達が、会場に着くまで遠回しに全員徒歩でガードをし、会場内では俺に一切近づかせないよう指示を張り巡らせていた。あとで文句の一つも言わせてやろう。今日の俺は偉く寛大だ。
そうだ、シオンに次会った時、何かプレゼントを用意してやろう、何がいいだろうか。
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